10:15 〜 10:30
[MIS15-06] 近年のアフリカ熱帯高山の氷河の縮小
-周辺の水環境や地域住民生活への影響に着目して-
★招待講演
キーワード:熱帯高山、氷河縮小、水環境、住民生活、安定同位体
東アフリカ中央部に位置するケニア山(5,199 m)の氷河の縮小が周辺域の水環境・水資源にどのような影響を与えているのかを、実地観測、同位体比分析、年代測定、聞き取り調査等から明らかにした。 研究対象地域山麓部(約 2,000 m)は、降水量が少なく、生活用水をケニア山由来の河川水、湧水に依存している現状がある。しかし、それら水資源と減りゆく氷河の関係性は明らかにされてこなかった。
ケニア山の降水サンプルから算出された同位体高度効果直線を用いて、山麓住民が利用する河川水と湧水の涵養標高の推定を試みた。その結果、山麓河川水の涵養標高は約4,650m、湧水は約4,700mとなり、高標高の融雪水や氷河融氷水の麓の水資源への寄与が示唆された。またケニア山西麓のナロモル川の河川水位は1985年〜2015年に至るまで減少傾向にあり、現地での聞き取り調査のなかで、その水資源の減少により栽培できる作物種が乾燥に強いもの(ジャガイモ、小麦、トウモロコシ等)に限られていることがわかった。
ケニア山山麓湧水のトリチウムとCFCsを測定した結果、山体での涵養時から40から60年かけて山麓に湧出していることが明らかになった。以上の結果により、過去の高標高帯の融雪水、氷河融氷水が地下に浸透し、40年以上の時間をかけて流れ下り、現在の山麓に湧出している可能性が高いことが示唆された。
また、ケニア山と同じ東アフリカに位置するキリマンジャロは“Water Tower”とも称されるように地域の給水塔として重要な役割を果たしている。今回実施した研究では、近年のキリマンジャロの氷河の縮小面積の分析を踏まえた上で、その縮小する氷河の融氷水が山腹河川水に寄与している可能性について同位体比分析から考察した。先行研究の結果と衛星画像解析から、キリマンジャロの氷河は1912〜2019年の間、速いスピードで縮小していることがわかった。氷河の年平均縮小面積は 0.066km2 (1989-2000年)、0.067km2 (2000-2010年)、0.088km2 (2010-2019年)と増加傾向にあり、このペースが続けば2030年頃にはキリマンジャロから氷河が姿を消すことが予想される。
また、河川水と氷河融氷水に対し酸素・水素同位体比分析を行った結果、乾期において山腹を流れる河川 (δ18O =−6.48‰ to −5.87‰、δD=−42.44‰ to −37.36‰、3,939m to 4,579m)は, 高標高帯の降水の値(δ18O=−2.41‰、δD=−3.6‰, 4,360m)よりも山頂付近の氷河融氷水 (δ18O =−6.03‰ to −5.14‰、δD=−48.19‰ to −39.02‰)の値に近く、山腹河川水に対する氷河融氷水の寄与が示唆された。キリマンジャロにおいて登山客が最も多く訪れるのは乾期である。氷河が将来的に消滅し、キャンプ等の運営に必要不可欠な乾期の山体の河川水が枯渇すれば、地域の観光産業に少なからず影響が及ぶことが考えられる。
ケニア山の降水サンプルから算出された同位体高度効果直線を用いて、山麓住民が利用する河川水と湧水の涵養標高の推定を試みた。その結果、山麓河川水の涵養標高は約4,650m、湧水は約4,700mとなり、高標高の融雪水や氷河融氷水の麓の水資源への寄与が示唆された。またケニア山西麓のナロモル川の河川水位は1985年〜2015年に至るまで減少傾向にあり、現地での聞き取り調査のなかで、その水資源の減少により栽培できる作物種が乾燥に強いもの(ジャガイモ、小麦、トウモロコシ等)に限られていることがわかった。
ケニア山山麓湧水のトリチウムとCFCsを測定した結果、山体での涵養時から40から60年かけて山麓に湧出していることが明らかになった。以上の結果により、過去の高標高帯の融雪水、氷河融氷水が地下に浸透し、40年以上の時間をかけて流れ下り、現在の山麓に湧出している可能性が高いことが示唆された。
また、ケニア山と同じ東アフリカに位置するキリマンジャロは“Water Tower”とも称されるように地域の給水塔として重要な役割を果たしている。今回実施した研究では、近年のキリマンジャロの氷河の縮小面積の分析を踏まえた上で、その縮小する氷河の融氷水が山腹河川水に寄与している可能性について同位体比分析から考察した。先行研究の結果と衛星画像解析から、キリマンジャロの氷河は1912〜2019年の間、速いスピードで縮小していることがわかった。氷河の年平均縮小面積は 0.066km2 (1989-2000年)、0.067km2 (2000-2010年)、0.088km2 (2010-2019年)と増加傾向にあり、このペースが続けば2030年頃にはキリマンジャロから氷河が姿を消すことが予想される。
また、河川水と氷河融氷水に対し酸素・水素同位体比分析を行った結果、乾期において山腹を流れる河川 (δ18O =−6.48‰ to −5.87‰、δD=−42.44‰ to −37.36‰、3,939m to 4,579m)は, 高標高帯の降水の値(δ18O=−2.41‰、δD=−3.6‰, 4,360m)よりも山頂付近の氷河融氷水 (δ18O =−6.03‰ to −5.14‰、δD=−48.19‰ to −39.02‰)の値に近く、山腹河川水に対する氷河融氷水の寄与が示唆された。キリマンジャロにおいて登山客が最も多く訪れるのは乾期である。氷河が将来的に消滅し、キャンプ等の運営に必要不可欠な乾期の山体の河川水が枯渇すれば、地域の観光産業に少なからず影響が及ぶことが考えられる。