日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 山の科学

2022年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、コンビーナ:今野 明咲香(常葉大学)、座長:今野 明咲香(常葉大学)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

11:50 〜 12:10

[MIS15-11] ジオダイバーシティは珪藻の多様性に貢献してきたか? -北アルプス亜高山帯の池沼を例に-

★招待講演

*齋藤 めぐみ1苅谷 愛彦2、高岡 貞夫2 (1.国立科学博物館地学研究部、2.専修大学文学部環境地理学科)

キーワード:珪藻、生物多様性、ユビキタス分布、ジオダイバーシティ、北アルプス、亜高山帯池沼

珪藻は単細胞一次生産者で、海、湖、池、川、沼地、土壌など、あらゆる水域に広く分布する。その分布の広さゆえに、珪藻種の分布は、塩分、酸性度、栄養塩濃度、汚濁度などの環境要因に支配されていると理解されることが多い。すなわち、私たちは、珪藻はどのような場所へも速やかに分布を広げる能力を持ち、環境さえ整えばどこにでも生育できるというユビキタス分布を無意識に想定している。一方で、水域や流域が分断された池沼間の珪藻の移動は十分には明らかにされておらず、ユビキタス分布を維持する機構は不明である。また、ほかの淡水域から地理的に隔離された海洋島で淡水珪藻の多様性が著しく低いことが暗示するように、長距離が淡水珪藻のユビキタス分布を妨げることも示唆されている。さらに、例外的に長い歴史を持つ古代湖には、限られた地理的分布を示す遺存種や系統が数多く知られている。珪藻がどのような時間的・地理的スケールで拡散し、その地域の珪藻の多様性を形成しているのかを明らかにする必要がある。
そこで本研究では、斜面の崩壊やマスムーブメントなどにより、頻繁に池沼が形成され埋積される亜高山帯を例に、限定的な珪藻の分散を実証することを目的とした。北アルプス亜高山帯の池沼の珪藻相の特徴について、水質などの環境要因や地理的位置との関係を検討するだけでなく、ジオダイバーシティの観点、すなわち池沼を成立させている地形の成因や形成年代、地形的に形成される微気候や水文環境との関係についても検討する。これまでに、50カ所以上の池沼において表層堆積物を採取し、それらに含まれる珪藻を殻の形態観察にもとづき75分類群以上に分類して計数した。これらの分類群のなかには、光学顕微鏡下では種を同定することが困難で属までの分類にとどまるもの、殻の形態にもとづいて分類は可能であるが既知種に同定できない分類群も含まれている。このように分類学上の課題は残されているが、計数結果を用いて統計学的な解析を行なって多様性や類似性を評価した。それによれば、まず、梓川沿いの標高が低い池沼において多様性が高く、標高が高い山稜上の池沼において多様性が低いことが指摘される。また、地理的に近接する同一の山塊あるいは流域の池沼の珪藻相に類似性が認められる。このような珪藻分布を説明する要因をさらに検討し、珪藻の多様性にジオダイバーシティがどのように影響を与えるかについて展望を発表する予定である。