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[MIS15-13] 東南極宗谷海岸で確認された突発的な氷河湖排水イベント
キーワード:氷河湖排水、東南極、南極アーカイブ空中写真、リモートセンシング
南極氷床縁辺域には主に最終氷期以降に形成された氷河湖が多数存在する。氷河湖の排水は,氷河湖周囲の環境や湖沼生態系に影響を与えるため,氷河湖変動のメカニズムの理解は地域の氷河変動や湖沼生態系の成立・発達過程を探る上で非常に重要である。本研究では東南極宗谷海岸スカルブスネス(南緯69度28分,東経39度40分)において,衛星画像および南極アーカイブ空中写真から明らかになった,1969−71年および2017年に発生した2度の突発的な排水イベントについて報告する。排水イベントが確認されたのは,日本の南極観測拠点である昭和基地から約60 km南に位置する露岩域スカルブスネス南東部にある神の谷池である。神の谷池は主に西側が露岩,東側が氷床により囲まれた氷床前縁湖かつ,夏期間においても氷に覆われている万年結氷湖である。2017年2月と10月に撮影されたLandsat8衛星画像を比較した結果,2月時点ではフラットに見えた神の谷池の湖氷面が10月には大幅に陥没していた。また2017年11月の第59次南極地域観測隊における野外調査時には,神の谷池の湖氷面に大きい起伏が確認されており,湖岸の高い位置には元の湖氷面を示すと考えられる氷塊が雪庇状に残されていた。以上の結果は2017年2月から10月の間に,神の谷池の湖水が排水したことを意味する。さらに1969 年と 1971 年の南極アーカイブ空中写真を比較すると,その2時期にかけて上記の2017年に発生した排水イベントと同様な特徴が見受けられた。すなわち,神の谷池は湖沼水位の上昇・排出を繰り返していると考えられる。湖水排水量の規模はおよそ71.1×106 m3と見積もられ,南極氷床前縁湖の排水事例としては最大規模のものである。特に1970年代の南極氷河湖における排水の報告は前例がなく,本研究における神の谷池の2度の湖沼排水イベントの検出は,南極氷河湖の排水の周期性や貯水速度といった南極氷河湖の形成・崩壊に関する貴重な知見となるだろう。