日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 山の科学

2022年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、コンビーナ:今野 明咲香(常葉大学)、座長:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、今野 明咲香(常葉大学)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)

14:55 〜 15:15

[MIS15-16] 糸魚川ジオパークの山岳研究の魅力とジオパーク活動への展開

★招待講演

*竹之内 耕1、小河原 孝彦1、香取 拓馬1、茨木 洋介1、ブラウン セオドア2 (1.フォッサマグナミュージアム、2.糸魚川市ジオパーク推進室)

キーワード:山岳研究、糸魚川ジオパーク、氷河の名残り、蓮華鉱山、栂海新道、ヒスイ文化

糸魚川ジオパークの山岳地域の特徴
南北の糸魚川-静岡構造線(以下,糸静線)を境に,東の頚城山塊(標高2000m級,妙高戸隠連山国立公園)と西の飛騨山脈(標高3000m級,中部山岳国立公園)が対峙する.これらはプレートの収束境界に生じた島弧の成り立ちを物語る.活火山焼山があり,日本で最初期に確認された氷河の痕跡が残り,白馬連山高山植物帯(特別天然記念物)がある.山岳地域は,大地の形成は言うに及ばず,さまざまな動植物,鉱山開発の遺構などが伴い,ジオパークに欠かせない素材を提供するエリアである.
氷期の名残
飛騨山脈北部には,震災予防調査会の火山調査で乗鞍岳に入った山崎直方が日本で最初期に確認された氷河の痕跡が残る.また氷期のレリックとして,また地質,地形,風雪などを反映した白馬連山高山植物帯(特別天然記念物)がある.蓮華温泉付近の噴気帯や湿原の高山植物,地すべりでできた白池では,ガイドツアーや子ども向けのツアーが行われている.
日本海と日本アルプスをつなぐ栂海新道
日本海から始まる飛騨山脈稜線上の栂海新道では,植物相の高度変化がよくわかる.これらは,フォッサマグナミュージアム(以下,博物館)の常設展示で紹介され,博物館研究報告に掲載されている.2021年はこの登山道が開通して50年の節目にあたり,特別展やグレイトトラバースで知られる田中陽希氏や地元の山岳会による講演会,座談会が開催され,登山道周辺の動画が記録された.稜線では,新潟大学や産総研,博物館などの合同地質調査が行われた.糸魚川にはよい山がたくさんあり,登山道は地元の小さな山岳会で維持管理されてきたが,高齢化が進んでおり,今後の登山道維持の方法が議論され始めている.
蓮華鉱山と白馬岳
ウォルター ウェストンが1894年(明治27)に白馬岳へ糸魚川の蓮華温泉から登った.彼の日記には,途中に鉱山の現場監督から鉱石を見せられ有望かと尋ねられたとある.この鉱山は蓮華鉱山と呼ばれ,標高2400mを超える雪倉岳の山麓に存在したもので,大正時代には三島由紀夫の祖父と立山信仰の神職が開発に関係したことがわかっている.坑口や事務所跡,精錬所跡が残っており,それらの位置や鉱業権の変遷が調べられた.またこの地域には木地屋という椀の素材(木地)を生産する職人集団がおり,全国の森林を求めて漂泊を重ねてきた人々であった.その集落は,ウェストンの白馬岳登山の休憩所となったところでもある.
大隆起がもたらしたヒスイ文化
縄文時代のヒスイ製大珠は世界最古級のヒスイ文化とされ,ヒスイは糸魚川の海岸や河口付近から採集された.ヒスイは,プレート沈み込み帯深部で形成され,やがて隆起運動によって地表へもたらされ,縄文人の目に留まった.山岳地域のヒスイ産地は天然記念物として保護されており,ヒスイ文化は山岳形成がもたらした恵みと言えるであろう.山岳地域に露出するヒスイは大珠に,ネフライトは磨製石斧に,砂岩は砥石にそれぞれ加工された.山岳と海をつなぐヒスイの供給路が,地質学と考古学分野の共同研究から明らかにされ,成果は長者ヶ原考古館で展示され,縄文時代の玉づくりなどの生活が体験できるプログラムが準備されている.
山岳科学とジオパーク
大隆起の結果,山岳地域の地層からは地下深部の情報が手に入る.また人の手が加わらない自然が残されているが,人が入り込んだとしても自然の仕組みを壊さない暮らし方がある.山岳地域の石の利用は遠い時代までさかのぼるし,平地の自然や暮らしも山岳地域と切り離せない.山岳地域はジオパークとしての見どころを抱えているが,アクセスや登山道維持の限界もある.ジオパークと山岳科学のさらなる連携が求められる.