11:00 〜 13:00
[MIS16-P03] 粒子配列に基づく混濁流・土石流ハイブリッド堆積物の形成プロセスの検討
キーワード:ハイブリッドイベント層、粒子配列解析、機械学習
深海での重力流の挙動を理解する鍵として,土石流堆積物の上下に混濁流堆積物が重なるハイブリッドイベント層が近年になって注目を集めている.Haughton et al. (2009) は,ハイブリッドイベント層と解釈される層の堆積構造をH1–H5に細分化するモデルを提案した.しかし,このモデルの普遍性に関する様々な地域での検討は不十分である.また,各区分の形成メカニズムについても仮説の段階に留まっており,十分な検証が行われているとは言い難い.そこで,本研究は機械学習技術を用いて砂岩切片画像から自動的に粒子を識別するモデルを作成し,それにより解析した粒子配列に基づいて,ハイブリッドイベント層の堆積構造区分の特徴を解明する.さらに,粒子配列の特徴と水槽実験の結果を比較することにより,ハイブリッドイベント層形成プロセスの推定を目指す.本発表では,大田代層に見られたハイブリッドイベント層の特徴および予察的な分析結果を報告する.
検討対象とされた大田代層は,千葉県房総半島中央部の高溝地域から東部の太平洋沿岸にかけて分布する.堆積相の特徴から,大田代層は海底扇状地堆積物と解釈されている.Fukuda and Naruse (2020) は,この大田代層に含まれる火山灰鍵層O7の近傍の層準でハイブリッドイベント層を観察した.本研究でも,火山灰鍵層O7の下位10 mの層準に見られた2枚のハイブリッドイベント層を検討の対象とする.
本研究で解析した2枚の堆積層には,以下の四つの堆積構造区分が観察された.(1) 区分Ⅰは砂岩層の基底部から30 cm程度の範囲に見られ,主に粗粒砂から極粗粒砂で構成されている.塊状または弱い級化を示しており,貝殻片を含んでいる.最下部では下位の層を侵食しており,マッドクラストが含まれる様子も観察される.(2) 区分Ⅱは底部から30–50 cmの範囲に見られ,区分Ⅰとの境界は粒度の急激な細粒化によって明瞭に識別される.この区間の堆積物の淘汰は悪く,主に細粒砂から中粒砂で構成されているが,大型のマッドクラストも含まれる.(3) 区分Ⅲは底部から50–65 cmの範囲に見られ,区分Ⅱとの境界は明瞭で,2つの区分の特徴はマッドクラストの含有率によって区別される.この区間の厚さは15 cm程度で,主に極細粒砂から細粒砂の塊状砂岩で構成されている.(4) 区分Ⅳは明瞭な境界を以て区分Ⅲの上に重なっており,葉理構造が観察されることで特徴づけられる.この区間は砂層の最上部10 cm程度を占め,主に極細粒砂から細粒砂で構成されている.
ハイブリッドイベント層の区分Ⅰ–Ⅲの粒子配列を解析した結果,区分Ⅲの特徴が他とは大きく異なることが明らかになった.本研究では,それぞれの区分の砂岩試料を2つの層から採取し,樹脂で固定して研磨断面を作成して,その画像をデスクトップスキャナーで撮影した.得られた画像を解析したところ,区分ⅠとⅡの粒子配列は10–20°の低角で上流に傾いたインブリケーションを示すのに対して,区分Ⅲは下部では40–50°の高角なインブリケーション角を示すことが明らかになった.この区分Ⅲの上部ではインブリケーション角が60–70°とさらに高角化する.
現時点でこれらの区分の成因は不明だが,堆積構造および粒子配列の特徴から判断して,区分Ⅰは高密度混濁流堆積物であるのに対し,区分ⅡおよびⅢは土石流堆積物である可能性がある.Naruse and Masuda (2006) は,基底部では水平に近い低角なインブリケーション角が上部では40–80°の高角なインブリケーション角へ移り変わることが土石流堆積物の粒子配列の特徴であることを水槽実験により示した.区分Ⅱから区分Ⅲの粒子配列の特徴は,これらが一連の土石流堆積物である可能性を示す.ただし,区分Ⅱと区分Ⅲの境界ではマッドクラストの含有率や粒度分布の淘汰度に大きな変化がみられる.土石流堆積物中に境界が観察される原因については,今後の検討が必要である.
文献
Fukuda, S. and Naruse, H., 2020, Journal of Sedimentary Research, 90, 1410–1435.
Haughton, P., Davis, C., McCaffrey, W., and Barker, S., 2009, Marine and Petroleum Geology, 26,
1900–1918.
Naruse, H. and Masuda, F., 2006, Journal of Sedimentary Research, 76, 854–865.
検討対象とされた大田代層は,千葉県房総半島中央部の高溝地域から東部の太平洋沿岸にかけて分布する.堆積相の特徴から,大田代層は海底扇状地堆積物と解釈されている.Fukuda and Naruse (2020) は,この大田代層に含まれる火山灰鍵層O7の近傍の層準でハイブリッドイベント層を観察した.本研究でも,火山灰鍵層O7の下位10 mの層準に見られた2枚のハイブリッドイベント層を検討の対象とする.
本研究で解析した2枚の堆積層には,以下の四つの堆積構造区分が観察された.(1) 区分Ⅰは砂岩層の基底部から30 cm程度の範囲に見られ,主に粗粒砂から極粗粒砂で構成されている.塊状または弱い級化を示しており,貝殻片を含んでいる.最下部では下位の層を侵食しており,マッドクラストが含まれる様子も観察される.(2) 区分Ⅱは底部から30–50 cmの範囲に見られ,区分Ⅰとの境界は粒度の急激な細粒化によって明瞭に識別される.この区間の堆積物の淘汰は悪く,主に細粒砂から中粒砂で構成されているが,大型のマッドクラストも含まれる.(3) 区分Ⅲは底部から50–65 cmの範囲に見られ,区分Ⅱとの境界は明瞭で,2つの区分の特徴はマッドクラストの含有率によって区別される.この区間の厚さは15 cm程度で,主に極細粒砂から細粒砂の塊状砂岩で構成されている.(4) 区分Ⅳは明瞭な境界を以て区分Ⅲの上に重なっており,葉理構造が観察されることで特徴づけられる.この区間は砂層の最上部10 cm程度を占め,主に極細粒砂から細粒砂で構成されている.
ハイブリッドイベント層の区分Ⅰ–Ⅲの粒子配列を解析した結果,区分Ⅲの特徴が他とは大きく異なることが明らかになった.本研究では,それぞれの区分の砂岩試料を2つの層から採取し,樹脂で固定して研磨断面を作成して,その画像をデスクトップスキャナーで撮影した.得られた画像を解析したところ,区分ⅠとⅡの粒子配列は10–20°の低角で上流に傾いたインブリケーションを示すのに対して,区分Ⅲは下部では40–50°の高角なインブリケーション角を示すことが明らかになった.この区分Ⅲの上部ではインブリケーション角が60–70°とさらに高角化する.
現時点でこれらの区分の成因は不明だが,堆積構造および粒子配列の特徴から判断して,区分Ⅰは高密度混濁流堆積物であるのに対し,区分ⅡおよびⅢは土石流堆積物である可能性がある.Naruse and Masuda (2006) は,基底部では水平に近い低角なインブリケーション角が上部では40–80°の高角なインブリケーション角へ移り変わることが土石流堆積物の粒子配列の特徴であることを水槽実験により示した.区分Ⅱから区分Ⅲの粒子配列の特徴は,これらが一連の土石流堆積物である可能性を示す.ただし,区分Ⅱと区分Ⅲの境界ではマッドクラストの含有率や粒度分布の淘汰度に大きな変化がみられる.土石流堆積物中に境界が観察される原因については,今後の検討が必要である.
文献
Fukuda, S. and Naruse, H., 2020, Journal of Sedimentary Research, 90, 1410–1435.
Haughton, P., Davis, C., McCaffrey, W., and Barker, S., 2009, Marine and Petroleum Geology, 26,
1900–1918.
Naruse, H. and Masuda, F., 2006, Journal of Sedimentary Research, 76, 854–865.