日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 地球表層における粒子重力流のダイナミクス

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (30) (Ch.30)

コンビーナ:成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、コンビーナ:酒井 佑一(京都大学大学院理学研究科)、志水 宏行(防災科学技術研究所)、コンビーナ:田邊 章洋(防災科学技術研究所)、座長:酒井 佑一(宇都宮大学農学部)、志水 宏行(防災科学技術研究所)

11:00 〜 13:00

[MIS16-P09] 重力流堆積物逆解析の不確実性の評価

*成瀬 元1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:堆積物重力流、逆解析、ニューラルネットワーク

近年になって,重力流堆積物や津波堆積物の逆解析がニューラルネットワークの活用により現実的な研究手法となりつつある.従来はフォワードモデルの計算負荷の高さが障害となり,タービダイトなどから過去の水理条件を読み取ることは困難であった.しかし,人工的な堆積物データを数値モデルより生成し,モデルに与えた水理条件と堆積物の特徴との関係をニューラルネットワークに学習させることで,高精度の逆解析モデルを構築可能であることが明らかになった.このアプローチであれば訓練用の人工堆積物データの生成は完全に並列化出来るため,負荷の高いフォワードモデルであっても問題なく逆解析が可能となる.ニューラルネットワーク逆解析法の汎用性は広く,混濁流のみならず津波堆積物や土石流堆積物などにも応用が可能であることがすでに明らかになっている.
その一方で,逆解析結果の不確実性の見積もりに関しては,いまだに手法が確立されたとは言えない状況にある.当然のことながら,堆積物から過去の水理条件を復元したとしても,その結果には必ずある程度の曖昧さが存在する.逆解析の不確実性には2種類の起源がある.一つはデータの不確実性である.測定データには必ず誤差がつきまとうが,この誤差が逆解析結果に与える影響については,入力データにノイズを与えることによって事前に見積もることができる.もう一つの逆解析の不確実性の起源が知識の不足である.学習の際に与えられたデータはすべての状況を網羅しているわけではなく,実際の堆積物を解析する際には学習データでは与えられなかった状況を解析している可能性がある.また,ニューラルネットワークの構造が逆解析モデルとして完全ではないことも,逆解析結果の不確実性につながる.しかし,従来の重力流堆積物のニューラルネットワーク逆解析手法では,知識の不足に起因する逆解析結果の不確実性の程度を見積もることが困難であった.
 本発表では,ベイズ統計学に基づき開発されたベイジアンニューラルネットワーク(BNN)を応用し,重力流堆積物の逆解析結果にどの程度の不確実性が存在しているのか見積もることを試みた.BNNでは,NNの重み係数は確率分布を持つものとみなされ,それらの値をサンプリングすることでフィードフォワード計算結果の不確実性も表現することが出来る.重み係数の分布からのサンプリング結果を近似的に得るため,近年ではモンテカルロドロップアウト法(MC Dropout)が提案されている.本研究ではこのMC Dropout法を用い,逆解析結果の不確実性を評価した.評価の対象は,Naruse and Nakao (2021) で行われたタービダイトの逆解析結果である.この研究では数値モデルにより300個のテストデータを生成し,その逆解析によって混濁流の初期条件(堆積物雲の長さ・高さ・濃度・斜面勾配)を推定している.この研究の結果に対してMC Dropoutを適用したところ,MAP推定値として,ほぼ既存研究と同じ結果が得られることが明らかになった.一方,推定値の95%確信区間はパラメーターによって大きく異なっていた.堆積物雲の形状(長さ・高さ)や濃度には推定値の10-30%ほどの不確実性があるのに対して,斜面勾配の推定値には大きな不確実性があり,確信区間の幅は推定値のおおよそ80%もの大きさとなっていた.
本研究の結果はあくまでも予察的なものだが,今後イベント堆積物の逆解析結果を防災などへ応用する際には,推定値の不確実性を見積もることは必須となるだろう.その際に,ベイジアンネットワークは有力な手法になるものと考えられる.