日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 水惑星学

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (34) (Ch.34)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、コンビーナ:福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、コンビーナ:渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、座長:玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)

11:00 〜 13:00

[MIS17-P01] ハビタブル天体への衝突に関する実験的研究:大気圧下での含水石英砂標的を用いた高速度衝突実験

*豊嶋 遥名1荒川 政彦1保井 みなみ1笹井 遥1 (1.神戸大学大学院理学研究科)


キーワード:ハビタブル天体、含水石英砂、高速度衝突実験、衝突蒸気雲、衝突クレーター

代表的なハビタブル天体の条件は,地球のように地表に液体の水が存在することである. 地球以外では,火星も過去に液体の水を表面に保持していた天体の一つで, 2020年には上層大気に水蒸気を観測したという研究報告もなされた. [1] 火星大気圧は約600Paと水の三重点圧力に程なく近い値であり,大気循環によって表面温度の低い極付近に水蒸気が輸送されると,降雨と蒸発が局所的にバランスし,水の局在化を起こす可能性がある. 現に極冠では液体の水の存在を示す証拠も見つかっている. [2]
火星をはじめ, 惑星表面には数多くの衝突クレーターが観測されており, その形状やサイズは多岐にわたる.火星において特徴的なのがランパートクレーターであり,このクレーターは地下や地表面の水や氷などの揮発性物質がエジェクタを流動化させることによって形成されたと考えられている. [3] しかしながら,水で湿った地面からの衝突による水蒸気放出過程については理解が進んでいない.
本研究では, 様々な含水率を持つ石英砂標的を用いて,火星の大気圧下で高速度衝突クレーター形成実験を行い, 衝突によって水蒸気が放出する物理過程を調べる.そして,地球や過去の火星のようなハビタブル天体に小惑星が衝突した時に引き起こされる地形および大気への影響を明らかにすることを研究目的とする.
実験には神戸大学の横型2段式軽ガス銃を用いて, 水平面から30˚傾斜させた含水砂標的(0-12wt.%)に, 2km/sもしくは4km/sでアルミ弾丸(d=2mm)を衝突させた. 全ての実験は室温20°C, 真空度600-800Paのもとで行われ, 試料中の水が液体の状態で実験を行なった. 実験時の様子は高速カメラ(1.0×105fps)で2方向から撮影して解析を行なった.
実験の結果, 弾丸が標的に衝突した瞬間には,衝突方向へ高速度の放出するジェットや弾丸の蒸発によるプラズマが観察された.それ以外にも標的表面の垂直上方へ白いプリュームの噴出が確認された.このプリュームは,衝突点付近から蒸発した水蒸気が凝縮した雲の可能性がある. しかしランパートクレーターに類似するようなクレーター形状は観察できなかった.
一軸圧縮貫入試験で計測された標的の貫入強度は,含水率0%から12%の範囲では増大することがわかった.この結果から推測するとクレーターの成長は,含水率の増加とともに抑制され,その直径は減少すると予想される. しかしながら,クレーター直径は最終クレーター及び遷移クレーターとも, 含水率~6%までで30-50%減少し, その後含水率~12%までで~20%増加した.この結果から,クレーター直径は,含水率の増加に伴う見かけの摩擦力の増加によって減少するが, 含水率~6%を超えると粒子間の水が衝撃波の減衰を緩和する効果が支配的となり,クレーターの成長が促進され,直径が増加に転じている可能性がある.

【参考文献】 [1]Fedorova, et al. (2020), Science 367, 297-300. [2]Orosei, et al. (2018), Science 361, 490-493. [3]Suzuki and Kurita. (2016), Journal od Geography 125(1), 13-33.