14:15 〜 14:30
[MIS18-02] サンゴ骨格の炭素同位体比と形態解析から解明する北太平洋における人為起源二酸化炭素の海洋吸収量の変動
キーワード:スース効果、人為起源二酸化炭素、炭素同位体比、地球温暖化、海洋酸性化
産業革命以降化石燃料の利用や森林伐採といった人間活動が活発化することに伴う大気中の二酸化炭素(CO2)の増加は、地球温暖化を加速させる一因となっている。さらに、大気中のCO2濃度が増加することで海洋へのCO2の取り込みが加速し、海水中の溶存無機炭素(DIC)の炭素同位体比(δ13CDIC)が低下していることが多くの先行研究で指摘されている(Oceanic 13C Suess effect (Gruber et al.,1999))。一方で、大気CO2濃度が1958年からハワイのマウナロア観測所(Mauna Loa Observatory)で、海水のpCO2・DIC濃度・pHといった海洋のCO2に関する観測が1989年からStation ALOHAで行われており、観測記録はまだ限定されている。
サンゴ骨格の炭素同位体比(δ13Cc)は日射量や海水中のDICといった環境因子によって変化するため、様々な海域のサンゴコアのδ13Ccを用いて観測開始前からの人為起源CO2の海洋吸収量やOceanic 13C Suess effectの影響を評価する研究が行われてきた。しかし、δ13Ccの変動要因は環境因子に加え生理的因子(光合成, 呼吸, 産卵など)によっても変動するため、その評価方法に結論が出ていない。また、先行研究ではCO2に関する環境データが乏しい海域のサンゴコアが用いられることが多いため、人為起源のCO2が海洋生態系に与える影響度やその将来予測については様々な議論が続いている。本研究では、pCO2やCO2濃度が観測されてきたハワイにおいて採取されたサンゴコアについて過去100年間のδ13Ccの変動を解析し観測記録と比較する。また、日本沿岸黒潮流域に沿って熱帯域から温帯域に生息する造礁サンゴの同位体分析と骨格形態解析を行うことで、δ13Ccの変動要因を明らかにしOceanic 13C Suess effectの指標となりうるか考察した。
δ13Ccの分析には2015年にハワイ州オアフ島東岸マカイ桟橋周辺海域で採取された大きさ1.5mのPorites evermanniのサンゴコアを用いた。δ13Ccの測定には軽元素安定同位体比質量分析計(Thermo Scientific 253 Plus+ Kiel Device Ⅳ)を用いた。この結果と比較する環境データとして、主にStation ALOHAの観測記録を使用した。さらに、日本沿岸黒潮流域7地点から採取されたPlesiastrea versipora の骨格形態をデジダルマイクロスコープ(KEYENCE VHX-2000)を用いて定量的に測定し、同一試料のδ13Ccの結果(小山 ,2020 MS)と合わせて考察した。
ハワイのサンゴコアのδ13Ccは季節変動を示しながら変動し(2.09‰~-3.99‰)、1950年代前半以降-0.022‰/yearの割合で低下し、その数十年変動は1990年代から収束していた。さらに、ハワイのδ13Ccの1950年以降のδ13Ccの平均値について本研究と先行研究の結果を比較すると、高緯度に向かうにつれてδ13Cc平均値は低下する傾向を示し、特に北西太平洋(日本沿岸高緯度域)で~-6.0‰と他の海域と比較して著しく低い値を示した。さらに、骨格形態解析から日本沿岸の高緯度サンゴは隔壁(セプタ)が長く個体サイズが大きいことがわかった。
ハワイのサンゴコアについて、夏から秋にかけてδ13CcはDIC濃度と同様の傾向を示しながら値が低下した。さらに、1989年以降のδ13Cc低下率(-0.021‰/year)はStation ALOHAで観測されたδ13CDIC低下率(-0.026‰/year)と類似した値を示したことから、δ13Cc低下率はOceanic 13C Suess effectを記録していることが推察される。高緯度サンゴのδ13Cが特に低い要因として捕食率の増加や低水温によるCO2の海洋への溶解量の増加が挙げられるが、骨格形態解析の結果から日本沿岸の高緯度サンゴは光合成活性の高い組織を発達させることで光合成量を維持するように形態を変化させている可能性があり、高緯度サンゴのδ13CcはOceanic 13C Suess effectの影響を強く反映していると考えられる。ハワイの過去100年間のδ13Cc変動パターンと数十年規模の気候変動の要因であるPDO・NPGO・ENSOの間に有意な相関関係は見られなかった。また、ハワイと日本沿岸高緯度域の過去100年間のδ13Cc変動を比較すると北太平洋の中でも各海域で異なる変動パターンを示した。これより、100年規模のδ13Cc変動は各海域固有のCO2海洋吸収量の変動を記録していることが推察される。
サンゴ骨格の炭素同位体比(δ13Cc)は日射量や海水中のDICといった環境因子によって変化するため、様々な海域のサンゴコアのδ13Ccを用いて観測開始前からの人為起源CO2の海洋吸収量やOceanic 13C Suess effectの影響を評価する研究が行われてきた。しかし、δ13Ccの変動要因は環境因子に加え生理的因子(光合成, 呼吸, 産卵など)によっても変動するため、その評価方法に結論が出ていない。また、先行研究ではCO2に関する環境データが乏しい海域のサンゴコアが用いられることが多いため、人為起源のCO2が海洋生態系に与える影響度やその将来予測については様々な議論が続いている。本研究では、pCO2やCO2濃度が観測されてきたハワイにおいて採取されたサンゴコアについて過去100年間のδ13Ccの変動を解析し観測記録と比較する。また、日本沿岸黒潮流域に沿って熱帯域から温帯域に生息する造礁サンゴの同位体分析と骨格形態解析を行うことで、δ13Ccの変動要因を明らかにしOceanic 13C Suess effectの指標となりうるか考察した。
δ13Ccの分析には2015年にハワイ州オアフ島東岸マカイ桟橋周辺海域で採取された大きさ1.5mのPorites evermanniのサンゴコアを用いた。δ13Ccの測定には軽元素安定同位体比質量分析計(Thermo Scientific 253 Plus+ Kiel Device Ⅳ)を用いた。この結果と比較する環境データとして、主にStation ALOHAの観測記録を使用した。さらに、日本沿岸黒潮流域7地点から採取されたPlesiastrea versipora の骨格形態をデジダルマイクロスコープ(KEYENCE VHX-2000)を用いて定量的に測定し、同一試料のδ13Ccの結果(小山 ,2020 MS)と合わせて考察した。
ハワイのサンゴコアのδ13Ccは季節変動を示しながら変動し(2.09‰~-3.99‰)、1950年代前半以降-0.022‰/yearの割合で低下し、その数十年変動は1990年代から収束していた。さらに、ハワイのδ13Ccの1950年以降のδ13Ccの平均値について本研究と先行研究の結果を比較すると、高緯度に向かうにつれてδ13Cc平均値は低下する傾向を示し、特に北西太平洋(日本沿岸高緯度域)で~-6.0‰と他の海域と比較して著しく低い値を示した。さらに、骨格形態解析から日本沿岸の高緯度サンゴは隔壁(セプタ)が長く個体サイズが大きいことがわかった。
ハワイのサンゴコアについて、夏から秋にかけてδ13CcはDIC濃度と同様の傾向を示しながら値が低下した。さらに、1989年以降のδ13Cc低下率(-0.021‰/year)はStation ALOHAで観測されたδ13CDIC低下率(-0.026‰/year)と類似した値を示したことから、δ13Cc低下率はOceanic 13C Suess effectを記録していることが推察される。高緯度サンゴのδ13Cが特に低い要因として捕食率の増加や低水温によるCO2の海洋への溶解量の増加が挙げられるが、骨格形態解析の結果から日本沿岸の高緯度サンゴは光合成活性の高い組織を発達させることで光合成量を維持するように形態を変化させている可能性があり、高緯度サンゴのδ13CcはOceanic 13C Suess effectの影響を強く反映していると考えられる。ハワイの過去100年間のδ13Cc変動パターンと数十年規模の気候変動の要因であるPDO・NPGO・ENSOの間に有意な相関関係は見られなかった。また、ハワイと日本沿岸高緯度域の過去100年間のδ13Cc変動を比較すると北太平洋の中でも各海域で異なる変動パターンを示した。これより、100年規模のδ13Cc変動は各海域固有のCO2海洋吸収量の変動を記録していることが推察される。