日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 古気候・古海洋変動

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:長谷川 精(高知大学理工学部)、コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、コンビーナ:山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、座長:長谷川 精(高知大学理工学部)

14:30 〜 14:45

[MIS18-03] 喜界島塩道湾における水文学的特徴の解明ならびにハマサンゴ骨格の高解像度古環境解析から復元した1798年から2015年の月降水量変動

*小野寺 那智1渡邊 剛1,2,3伊藤 早織1、竹内 走1、駒越 太郎1,3山崎 敦子2,3,4 (1.北海道大学理学院、2.北海道大学大学院理学研究院、3.喜界島サンゴ礁科学研究所、4.九州大学大学院理学研究院)

キーワード:サンゴ、淡水流出、降水量、Ba/Ca、δ18Osw

総観規模で変動する水循環の中で,降水量は特に重要な気候変数の1つであり,社会と生態系に大きな影響を与える.本研究の対象である喜界島は,アジアモンスーンの影響を受けて、年降水量は全国平均よりも多い1892.7mmであるが、多孔質で透水性の琉球石灰岩から成り立つ地形により、降水の大部分は即座に地下へ浸透し,昔から恒常的な水不足に悩まされている.1820-50年代では、旱魃の影響で発生した数多くの飢饉の記録が残されており,水不足による人的・社会的影響は著しい.そのため,降水量の定量的な復元は自然循環を理解するための科学的目標であると同時に重要な社会的目標とされている.
我々は、喜界島塩道に生息するハマサンゴ骨格の高解像度古環境記録から1798-2015年の月降水量変動の復元を行うために,塩分,酸素・水素同位体比,蒸発の指標となるd-excessからサンゴ採取地の河川・降水の影響のプロセスを調査した.得られた結果から,サンゴ骨格の古環境記録より降水量-δ18Osw換算式の導出,適用性の評価を行い,旱魃により飢饉が多数発生した1830-50年代の降水量復元を試みた.
水同位体比の結果では、δ18Oswと塩分が強い正の相関関係を持ち(r2=0.99),塩道湾のδ18Oswが海水と河川起源の淡水の二成分混合であることを定量的に明らかにした.導出したδ18Osw-塩分回帰直線は黒潮表層水と長江の端成分値と乖離しているため、塩道湾では潮と長江の影響はないと考えられる。天水のδ18O-δD関係では,降水,河川水の同位体比が天水線より軽い方にプロットされ,蒸発の影響を受けていないことが分かった.降水が地下涵養して河川に流出するプロセスで、蒸発による同位体比変化が生じないほど,地中の浸透速度が速いことが推察される。
サンゴ骨格から得られた古環境データの月次変動(1979-2015年)では、Ba/Caとδ18Oswが梅雨期(5-6月)と台風期(9月)の淡水流出の増加と関連していることが明らかになった.特にδ18Oswは降水量と関連しており,4-9月においてr2=0.47の相関を示した. 1979-2015年の降水量変動とδ18Osw変動を比較すると,変動周期および振幅強度が概ね一致した.降水量とδ18Oswピークが一致する35点で相関を取ると,正の相関が認められ(r=0.72),降水量-δ18Osw換算式を得ることが出来た.
δ18Osw=-0.0024(±36.5688)×P + 0.37 (±19.89) (P: 月降水量mm/mo.)
上記の式を用いて1798-2015年の降水量復元を行った結果,1950-55年には500mm/mo.以上の豪雨が梅雨期に多数発生していることが明らかになった.一方,1930年代,1960年代の降水量は少ない結果となったが、「稀に見る大旱魃であった」という現地記録(広報きかい)と整合的であった.また、1820-30年代は、降水量の低下と非常に寒冷な時期(前島・田上, 1982)が重なっており、気候不順が飢饉発生の要因の一つであることを科学的な側面から裏付けた。