09:30 〜 09:45
[MIS18-13] 諏訪湖堆積物のバイオマーカー分析による最終氷期以降の内陸古環境変動の復元
キーワード:古植生、バイオマーカー、諏訪湖、最終氷期、山間湖
[はじめに]最終氷期から後氷期、ヤンガードリアスイベント、完新世にかけては急激な寒冷化、温暖化が繰り返したことが知られており、内陸域における気候、植生は大きな影響を受けたと考えられる。しかし、最終氷期以降の古環境の復元は海洋や氷床のコアを用いて盛んに行われているが、内陸、特に山間の湖沼堆積物を用いた復元は少ない。本研究では長野県諏訪湖から得られた堆積物コアを用いてバイオマーカー分析を行い、中部日本内陸域の最終氷期以降の古環境復元を行った。現時点で予察的な分析結果ではあるが、山間の湖沼環境でのバイオマーカー指標の適用性について検討した。
[試料と方法]本研究では2020年に諏訪湖湖岸域で採取された堆積物コアST2020を用いた。コアの年代は14C年代測定により決定し、コア最下部が約2.7万年前である。コア試料は1~2cm層厚で採取し、凍結乾燥後に外側を取り除いて粉末にした。粉末試料から抽出した溶媒をカラムで分けた画分ごとにGC-MSを用いてバイオマーカー分析を行った。コアST2020では堆積学的な調査から湖成相(Lacustrine)、沼沢相(Pond)、氾濫原相(Floodplain)など堆積環境が大きく変化したことが推定されている(葉田野, 2021)。
[結果と考察]堆積物試料からは、バイオマーカーとして、n-アルカン、ホパノイド、ステロイドがおもに検出された。続成指標としてn-アルカンの奇数炭素優位指標 (CPI)、β, β-ホパン比、植生指標としてn-アルカンの平均鎖長 (ACL)、水生植物指標(Paq)、ステロイドの藻類/高等植物比であるC27/(C27+C29)比、酸化還元指標としてスタノール/ステロール比(Ste/Sta)を用い、古環境変動の復元を行った。
続成指標はCPIとβ, β-ホパン比で異なった挙動を示した。LacustrineやPondにおいて、CPIは低い値を示し、逆にβ, β-ホパン比は高い値を示した。n-アルカン、ホパノイドの起源がそれぞれ陸上植物の葉ワックス成分、バクテリアと異なっており、その違いを反映していると考えられる。CPIが低い層ではn-アルカン濃度が高くなっており、湖沼環境で続成の進んだ古い有機物が流入することで、CPIが低くなったのだと考えられる。
植生指標であるACLは最終氷期では約29.5と高い値であり、後氷期には減少する。その後再び上昇する。これは最終氷期では草原的な植生が広がり、その後の温暖化で森林植生へと移行し、完新世では再び草原植生になったことが示唆される。この後氷期における森林の拡大、その後の縮小は安間ほか(1990)による花粉分析結果と調和的であった。PaqとC27/(C27+C29)比はどちらもLacustrine、Pondで高い値をとり、その他の環境では低い値をとった。PaqとC27/(C27+C29)比はそれぞれ水生植物の寄与率と、珪藻の寄与率を示しており、本研究では湖水位もしくは湖水面積の拡大の変動を反映していると推察している。
酸化還元指標において、水生生物由来のC27、C28ステロイドのSte/Sta 比はLacustrineで高い値、つまり還元的な環境を示した。一方、陸上植物由来のC29ステロイドの Ste/Sta比は異なる傾向を示し、約9,000~12,000年前、約20,000年前に顕著な増加スパイク、つまり急激な還元化イベントがあったことが示唆された。極端に還元的な土壌など陸起源物質が流入したことを予想しているが、現時点では原因はよくわからない。
[試料と方法]本研究では2020年に諏訪湖湖岸域で採取された堆積物コアST2020を用いた。コアの年代は14C年代測定により決定し、コア最下部が約2.7万年前である。コア試料は1~2cm層厚で採取し、凍結乾燥後に外側を取り除いて粉末にした。粉末試料から抽出した溶媒をカラムで分けた画分ごとにGC-MSを用いてバイオマーカー分析を行った。コアST2020では堆積学的な調査から湖成相(Lacustrine)、沼沢相(Pond)、氾濫原相(Floodplain)など堆積環境が大きく変化したことが推定されている(葉田野, 2021)。
[結果と考察]堆積物試料からは、バイオマーカーとして、n-アルカン、ホパノイド、ステロイドがおもに検出された。続成指標としてn-アルカンの奇数炭素優位指標 (CPI)、β, β-ホパン比、植生指標としてn-アルカンの平均鎖長 (ACL)、水生植物指標(Paq)、ステロイドの藻類/高等植物比であるC27/(C27+C29)比、酸化還元指標としてスタノール/ステロール比(Ste/Sta)を用い、古環境変動の復元を行った。
続成指標はCPIとβ, β-ホパン比で異なった挙動を示した。LacustrineやPondにおいて、CPIは低い値を示し、逆にβ, β-ホパン比は高い値を示した。n-アルカン、ホパノイドの起源がそれぞれ陸上植物の葉ワックス成分、バクテリアと異なっており、その違いを反映していると考えられる。CPIが低い層ではn-アルカン濃度が高くなっており、湖沼環境で続成の進んだ古い有機物が流入することで、CPIが低くなったのだと考えられる。
植生指標であるACLは最終氷期では約29.5と高い値であり、後氷期には減少する。その後再び上昇する。これは最終氷期では草原的な植生が広がり、その後の温暖化で森林植生へと移行し、完新世では再び草原植生になったことが示唆される。この後氷期における森林の拡大、その後の縮小は安間ほか(1990)による花粉分析結果と調和的であった。PaqとC27/(C27+C29)比はどちらもLacustrine、Pondで高い値をとり、その他の環境では低い値をとった。PaqとC27/(C27+C29)比はそれぞれ水生植物の寄与率と、珪藻の寄与率を示しており、本研究では湖水位もしくは湖水面積の拡大の変動を反映していると推察している。
酸化還元指標において、水生生物由来のC27、C28ステロイドのSte/Sta 比はLacustrineで高い値、つまり還元的な環境を示した。一方、陸上植物由来のC29ステロイドの Ste/Sta比は異なる傾向を示し、約9,000~12,000年前、約20,000年前に顕著な増加スパイク、つまり急激な還元化イベントがあったことが示唆された。極端に還元的な土壌など陸起源物質が流入したことを予想しているが、現時点では原因はよくわからない。