日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 古気候・古海洋変動

2022年5月27日(金) 09:00 〜 10:30 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:長谷川 精(高知大学理工学部)、コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、コンビーナ:山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、座長:山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)

09:45 〜 10:00

[MIS18-14] 花粉組成変化に基づく過去4万年間のモンゴル~シベリア南部の時空間的植生変遷の復元

*今岡 良介1、志知 幸治2長谷川 精1、Niiden Ichinorov4勝田 長貴3、Davaasuren Davaadorj6村山 雅史1岩井 雅夫1、出穂 雅実5 (1.高知大学、2.森林総合研究所四国支所、3.岐阜大学、4.モンゴル古生物研究所、5.東京都立大学、6.モンゴル国立大学)


キーワード:花粉分析、永久凍土、植生復元、モンゴル

近年の地球温暖化に伴う地球環境の激変の中で,特に問題視されているものにシベリア永久凍土の融解があり,凍土中に含まれるメタンガスの大気中への放出による更なる温暖化の加速と,凍土融解に伴う中・高緯度域の水環境や植生,陸域生態系への甚大な影響が懸念されている(Crichton et al, 2016, Nature Geosci).気候モデルに基づいて温暖化進行に伴う永久凍土の動態を予測した研究は幾つか存在するが(Lawrence et al., 2005, GRL),その変化に対してどのように植生が応答していくのかについては不明な点が多く,過去の記録からの知見が必要となる.そこで本研究では,永久凍土の末端部と砂漠帯の境界部に位置するモンゴル北部に着目した.同地域は気候変動に伴う永久凍土の動態を記録している可能性があるものの,砂漠帯との境界に近い半乾燥地域であるため,過去の植生変遷を復元するための花粉記録が少ないうえに(Manual et al., 2020; ESR),最終氷期以降の連続的な花粉記録の報告がなされていない.本研究ではモンゴル北部のサンギンダライ湖の湖底堆積物から連続的な花粉組成変化を復元し,既存のシベリア南部やモンゴル南部の花粉記録と比較考察することにより,過去4万年間の気候変動に伴う同地域の時空間的な植生変遷の解明を試みた.
本研究で用いた試料は,サンギンダライ湖(N49°15’42”; E98°55’ 23”; 標高1885 m; 水深25 m)において,2016年7月に採取した表層堆積物コア(16SD01~04; 各約82 cm長)と2019年3月に採取したボーリングコア(19SD01-05; 合計約20 m長)である.高知コアセンター設置のXRFコアスキャナー(Itrax)を用いて高解像度元素組成変動を復元し,コア間の対比と複合コアの構築を行った.また土壌14C年代に基づき年代モデルを構築した.年代モデル構築の結果,複合コア最深部(深度12.5m)の年代が約4.1万年前に,複合コア深度4.4mがベーリング・アレレード温暖期に,そして複合コア深度2.9mが完新世初期に相当することが明らかになった.そして構築した複合コアから採取した144試料に対して花粉化石の抽出と観察・同定を行い,植生変遷の復元を行った.
花粉分析の結果,全層準を通してヨモギ属などの草本・低木花粉がマツ属などの高木花粉よりも多く,全期間において草本植生が優勢であったことが分かった.しかし時代毎にその割合が大きく変化しており,最終氷期(4.1~1.2万年前)では,森林植生がほぼ存在せず草本植生のみが拡大していた.一方で完新世(1.2万年前以降)では,森林植生の割合が増加し,現在と同様な森林ステップの植生が拡大していた.さらに完新世を通じた日射量変動と対応して,優占する植生が次のように変遷したことが明らかになった.プレボレアル温暖期(1.2万~9800年前)には,先駆樹木花粉のカバノキ属が優占したのに対し,完新世前中期(9800~4000年前)には,湿潤樹木花粉であるトウヒ属やマツ属が増加しピークを迎え,湿潤な植生及び環境が拡がったことが示唆される.そして完新世後期(4千年前以降)には,ヨモギ属やイネ科などの草本花粉が増加した一方でマツ属などの高木花粉が減少しており,比較的乾燥した植生及び環境に変わったと示唆される.特にマツ属の増減は北緯50度の夏季日射量変動と対応しており,完新世における植生の変遷は日射量の増減に伴う永久凍土の融解・凍結による土壌水分量の増減の応答を示していると解釈される.また完新世における1000年スケールの急激な植生変遷は偏西風の蛇行に伴う降水量変動に起因すると示唆される.
本研究ではさらに,サンギンダライ湖の結果をシベリア南部のコトケル湖(Shichi et al., 2009; QI)やモンゴル南部のオログ湖(Yu et al., 2019; Paleo-3)の結果とも比較した.その結果,シベリア南部ではプレボレアル温暖期に寒帯落葉樹植生が穏やかに増大し,6000前頃に針葉樹植生が急増していた.一方,モンゴル南部では最終氷期のステップ植生から,完新世にはより乾燥した環境を示す砂漠植生が拡大していた.このように緯度変化に応じて異なる植生変遷の応答が明らかになった.

文献
Chevalier, M., Davis, B. A., Heiri, O., Seppä, H., Chase, B. M., Gajewski, K., ... & Kupriyanov, D. (2020). Pollen-based climate reconstruction techniques for late Quaternary studies. Earth-Science Reviews, 103384.
Crichton, K. A., Bouttes, N., Roche, D. M., Chappellaz, J., & Krinner, G. (2016). Permafrost carbon as a missing link to explain CO2 changes during the last deglaciation. Nature Geoscience, 9(9), 683-686.
Shichi, K., Takahara, H., Krivonogov, S. K., Bezrukova, E. V., Kashiwaya, K., Takehara, A., & Nakamura, T. (2009). Late Pleistocene and Holocene vegetation and climate records from Lake Kotokel, central Baikal region. Quaternary International, 205, 98-110.
Yu, K., Lehmkuhl, F., Schlütz, F., Diekmann, B., Mischke, S., Grunert, J., et al. (2019). Late Quaternary environments in the Gobi Desert of Mongolia: Vegetation, hydrological, and palaeoclimate evolution. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 514, 77-91.