日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 古気候・古海洋変動

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:長谷川 精(高知大学理工学部)、コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、コンビーナ:山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、座長:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

12:00 〜 12:15

[MIS18-22] インド洋の炭酸塩堆積物より復元した古第三紀の海水Os同位体比記録:始新世「超温暖化」イベントにおける化学風化フィードバックへの示唆

★招待講演

*桑原 佑典1安川 和孝3,1大田 隼一郎3,2矢野 萌生2,3見邨 和英2田中 えりか4藤永 公一郎2,3中村 謙太郎1,2加藤 泰浩3,1 (1.東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻、2.千葉工業大学次世代海洋資源研究センター、3.東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター、4.国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門)


キーワード:始新世超温暖化、暁新世-始新世境界温暖化極大、オスミウム同位体比、炭素循環、化学風化

新生代古第三紀前期 (暁新世後期~始新世中期)は、地球史上の長期的な (数百万年オーダー)気候トレンドの中で,特に温暖な地球環境だったことが知られている.さらに,「超温暖化 (hyperthermals)」と呼ばれる,より短期的な(数万年~数十万年オーダー)時間スケールでの急激な温暖化イベントが複数発生しており[1],中でも最大のイベントである暁新世-始新世境界温暖化極大(PETM)は,現在の地球温暖化に対比しうる気候変動イベントとして注目されている[2].
PETM においては,珪酸塩鉱物の化学風化の促進と,これに伴う大気CO2の消費の増大が,温暖化に対する負のフィードバックとして気候の回復に寄与した可能性が指摘されている [3]。しかしながら,このメカニズムが他の超温暖化イベント(ETM2やETM3など)においても同様に機能したのかは未解明である.
本研究では,珪酸塩鉱物の風化フラックスのプロキシとして,海水のオスミウム同位体比(187Os/188Os)を利用した.海水 Os 同位体比は,大陸から流入する放射壊変起源の Os に富む (187Os/188Os = 1.0−1.4) フラックスと,マントルや宇宙塵に由来する非放射壊変起源 Os に富む (187Os/188Os = ~0.13) フラックスの相対強度により決定される.両者の同位体比は大きく異なる上,海洋での Os の滞留時間が数万年オーダーと比較的短いため,海水 Os 同位体比は海洋への各流入フラックスの変動を鋭敏に捉えることができる[4].
本発表では,インド洋のExmouth 海台(ODP Site 762C)と Kerguelen 海台(ODP Site 738C)の炭酸塩堆積物より復元した,古第三紀前期の海水 Os 同位体比記録を報告する.さらに,海水 Os 同位体比記録に基づく 1-box 同位体マスバランス計算により,河川水由来の Os フラックスの取りうる範囲を推定し,始新世の超温暖化イベントにおける化学風化フィードバックについて議論する.

[1] Zachos et al. (2008) Nature 451, 279-283. [2] Zeebe & Zachos (2016) Nature Geoscience 9, 325-329. [3] Ravizza et al. (2001) Paleoceanography 16, 155-163. [4] Peucker-Ehrenbrink & Ravizza (2000) Terra Nova 12, 205-219.