日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 地球科学としての海洋プラスチック

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、コンビーナ:川村 喜一郎(山口大学)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、コンビーナ:土屋 正史(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門)、座長:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、川村 喜一郎(山口大学)

09:55 〜 10:10

[MIS19-04] 破壊エネルギーとマイクロプラスチックの生成を繋ぐ物理モデル

*青木 邦弘1古恵 亮1Barbieri Ettore1 (1.国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

キーワード:マイクロプラスチック、粒径分布、破壊力学、統計力学

破壊はマイクロプラスチック問題の根幹であるが、その具体的な物理モデルが無いために破壊で生じるマイクロプラスチックのサイズと量を予測できないのが現状である。この状況を打開すべく、本研究では、海象・気象等の環境場が生み出す破壊エネルギーに応じてマイクロプラスチックのサイズ分布がどのように決まるかを表す理論モデルを統計力学を援用して構築した。本理論モデルは次の二つの原理に基づいている:1)小さなサイズの破片形成ほど大きな破壊エネルギーを要する;2)破壊エネルギーの発生確率はボルツマン分布に従う。前者は、破壊で生じる表面エネルギーが破断面の面積に比例することからの帰結であり、後者は統計力学における有限のエネルギーの分配則から帰結である。本理論モデルから導かれるサイズ分布は、サイズの大きい領域で冪乗則に従い、サイズの小さい領域で対数正規分布に近い形状を持つ。この分布は、観測されたプラスチック片のサイズ分布をマイクロプラスチックからメソプラスチックに渡る幅広いサイズ領域(10μmから10cmのオーダー)においてよく説明する。観測における微小破片量の過小評価が沈降やサンプリングエラーの点から示唆されているが、本理論モデルはこれと矛盾するものではない。観測値を超える微小破片が存在する場合、プラスチックがより大きな破壊エネルギーを受けたことが本理論から定量的に予想できる。以上から、本理論モデルは、破砕源の海岸における環境場エネルギーを定量化することでサイズ毎の破片生成量を予測する道を開く可能性がある。発表時は、材料強度がサイズ依存する場合の本理論モデルの拡張可能性、および、確率過程に基づく破壊の速度論との比較についても議論したい。