日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 地球科学としての海洋プラスチック

2022年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、コンビーナ:川村 喜一郎(山口大学)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、コンビーナ:土屋 正史(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門)、座長:川村 喜一郎(山口大学)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)

11:10 〜 11:25

[MIS19-07] 駿河トラフ、相模トラフ、伊豆小笠原海溝陸側斜面で採取された深海堆積物中のマイクロプラスチックの輸送メカニズム

渥美 萌香1、野牧 秀隆2、井上 睦夫3、土屋 正史2、中嶋 亮太2、*川村 喜一郎1 (1.山口大学、2.海洋研究開発機構、3.金沢大学)

キーワード:海洋プラスチック、蛍光顕微鏡、しんかい6500、ハイパードルフィン

本研究は、マイクロプラスチック(Microplastics、以下MPs)の深海への輸送経路を明らかにした。
支援母船「よこすか」によるYK18-04航海および東北海洋生態系調査研究船「新青丸」によるKS-18-J02が実施され、試料は、しんかい6500(以下6K)およびハイパードルフィン(以下HPD)によって採取された。採取地点は、駿河トラフの湾奥域(HPD#2041St.1;水深1548m)、湾央域(6K#1514 St. 7;水深1641m)、湾口域(HPD#2044St.3;水深3595mとHPD#2044St.3;水深3585m)、相模トラフ東端(6K#1511 St.1;水深1236mと6K#1511 St.2;水深1225m)、伊豆小笠原海溝陸側斜面(6K#1513 St.5;水深6378m)である。堆積物試料は、20〜30cm長であり、アルミ製コアラーを用いて採取後、コンタミネーション防止策をとりつつすぐに堆積物深度別に切り分け、焼成済みのガラス瓶に封入した。
MPsの分析は、以下の手順で行った。まず、試料を63µmのふるいによって泥質部を除去し、重液分離、過酸化水素処理を行った。その後、ナイルレッドでMPsを染色し、蛍光顕微鏡で観察した。観察に際して、1)よく蛍光を発している粒子、2)表面がスムースなもの、を選別した。試料処理を行う過程において、極力簡易クリーンベンチを用い、プラスチック製品を用いず、綿製の白衣を着用した。処理中に蒸留水を張った蒸発皿を置き、処理環境中のMPsのカウントを行った。
堆積相解析の結果、駿河トラフ湾奥、湾央域は全体的にシルト質粘土からなり、駿河トラフ湾口域の試料は、シルト質粘土と砂質とからなっていた。砂質部は有機物のδ13C分析結果とあわせ、タービダイトであると結論づけた。相模トラフ域と伊豆小笠原海溝陸側斜面域の試料は、全体的にシルト質粘土であった。これら試料の泥質部は、δ13C値から半遠洋性泥と結論づけた。
MPs分析の結果、堆積物中から合計158粒のMPsを検出することができた。そのうち、78個が繊維状であった。結果は個数(個)と、乾燥堆積物1g当たりの個数(個/g)で示す。また、抽出処理作業中の環境から混入したMPsはなかった。MPsは、駿河トラフの湾奥域、湾央域、湾口域の泥質部で、検出された最大値が14個(22.6個/g)(HPD#2041 St. 1)、4個(3.1個/g)(6K#1514 St 7)、1個(0.54個/g)(HPD#2044 St. 3)と3個(1.89個/g)(HPD#2044 St. 4)であった。また、その検出量は、泥質部においてスパイク状にばらついていた。湾口域の砂質部では最大1個(0.03個/g)(HPD#2044 St. 3)と6個(1.17個/g)(HPD#2044 St. 4)であった。
相模トラフでは泥質部で検出された最大値が4個(5.06個/g)(6K#1511 St.1)、4個(4.93個/g)(6K#1511 St.2)、伊豆小笠原海溝陸側斜面域では、最大4個(3.57個/g)(6K#1513 St.5)検出された。また駿河トラフと同様にMPs検出量はスパイク状に増減していた。
上記の検出個数の結果に基づくと、泥質部では、駿河トラフにおいて陸に近い海域でMPsがより多く存在している。これは、δ13C値が陸に近い海域でより陸上植物由来であることとも符号している。このような陸上起源の泥は、富士川から定常的もしくは洪水などによってもたらされる。例えば、Nakajima et al. (2022)では、台風によって漂う大量のプラスチックを報告している。このような大量のプラスチックが浮力を失いながら泥層中に沈積することにより、陸に近い海域でより多くのMPsが存在している。
一方で、沖合いの伊豆小笠原海溝陸側斜面の泥質部でもMPsが示され、この存在量は相模トラフサイトの泥質部の値と変化がなかった。これは、巨大渦よるプラスチック濃集(Nakajima et al., 2021)と関係しているかもしれない。
このように、泥質部では主として海面からの沈降によってMPsが混入している。そして、それらは生物擾乱によって鉛直混合されていることが鉛同位体から示される。この鉛直混合により、MPsの個数は泥質部において一定の値にはならないと思われる。
それに対して、駿河トラフサイトで見られるタービダイト部では、陸から離れていても多くのMPsが検出された。これは泥質部への沈降による混入とは異なり、混濁流により陸上から輸送されたことを強く示唆する。
Nakajima R et al. (2022) Front. Mar. Sci. 8:806952.
Nakajima R. et al. (2021) Mar. Poll. Bull. 112188-112188.