09:30 〜 09:45
[MIS20-03] 南大洋における海氷融解量と海氷による正味淡水フラックスの見積り
キーワード:南大洋、塩分プロファイル、海氷融解、淡水フラックス
海氷は結氷時に高塩分水を排出し、融解時に淡水を供給するので、その移動によって塩(淡水)の再配分を行う。南大洋の沿岸域では多量の海氷生成により高密度の南極底層水を形成し、海洋大循環を駆動する。一方、南極沿岸から海氷が輸送され海氷融解により低温低塩水が形成される海域では、風によるエクマン収束により南大洋中層へ低温低塩水を供給している。Helm et al.(2010)等による研究から、この40-50年で、南大洋中層が世界で最も低塩分化している海域であることが示された。Haumann et al.(2016)は、この原因として、海氷融解量が増加したため、南大洋中層の低塩分化が強化されたことを示唆した。このように海氷の輸送と融解は、塩分の子午面・鉛直勾配を生じさせる。塩分が密度に大きく影響する極域では、海氷融解がどこで生じ、どう変動しているかは、成層構造の形成やその変動に伴う海洋上層での二酸化炭素の取り込み量の変化といった、全球的な気候変動とも関わってくる。
海氷生成量に関しては衛星データと熱収支計算を組み合わせた研究により、全球的にその分布や変動がわかってきたが、海氷融解量については、融解は不均一に起こり、衛星からの把握も難しいため、推定がなかなか困難な状況にある。近年、アザラシによるバイオロギングにより海氷下や冬季の現場データが取得できるようになったことやArgoデータの蓄積により、海氷下も含めた南大洋全体の全季節を網羅する現場データが揃いつつある。Pellichero et al.(2017)はこれらのデータすべて用いて、初めて観測ベースから、南大洋の海氷域の混合層の熱塩収支を論じ、海氷の生成・融解が熱塩収支に最も大きく貢献することを示し、海氷融解量分布も提示した。しかし、この手法から融解量を導出するには1年サイクルのデータを必要とし、冬季データの少なさから、導出された分布は空間分解能が低く、海氷融解量の経年変動までの議論は行っていない。
海氷が融解すると海洋上層には明瞭な低塩層が形成される。本研究では、この低塩層に着目して、データが大量に存在する春先の海氷融解期の現場データをすべて用いて、塩分プロファイルの形から直接的に海氷融解量を推定する手法を開発し、分解能のより高い海氷融解量分布及びその時空間変動を明らかにすることをめざす。海氷融解後には、結氷温度にある冬季水の上に塩分が大きく減じた層が出現するが、その塩分の欠損量を海氷融解量に変換することで融解量を推定する。この手法の鍵は、冬季水の最上部の深さを検出することである。塩分プロファイルのみでは表層の低塩分層が、海氷融解によるものか否かの判別が難しいことから、本研究では、水温プロファイルも用いて冬季水最上部を検出するアルゴリズムを開発した。
このアルゴリズムを使用して、南大洋の南緯54度以南11-3月の全データ約20万個から、海氷融解後でかつ冬季水最上部が明瞭に検出できるデータ約2万5千個のプロファイルを抽出し、融解量を推定した。次に、全推定データから海底地形に沿う方向に重みを大きくする手法(Shimada et al., 2017)により気候値グリッドデータを作成した。得られた空間分布は、3つのジャイヤの西側で融解量が大きい(約1.5m)という結果になり、Pellichero et al.(2017) による海氷融解量の空間分布より、コントラストを強めたような分布となった。さらに、氷厚最大となる10,11月におけるICESat衛星による氷厚分布によく対応した分布となり、平均氷厚80cmという値も推定した平均融解量(77cm)とよく合っている。海氷漂流速度データと合わせて比較すると、各ジャイヤにより沿岸域から海氷が沖合に漂流されて、そこで融解している可能性を見ることができた。一方アムンゼン海周辺においては、氷厚は大きいが融解量は小さい分布となる。この海域に関しては、3月の海氷密接度データから、海氷が融けきっておらず多年氷となっている場合が多いことが示され、そのため氷厚と融解量で分布が異なることが示唆された。Argoデータ及びアザラシによるバイオロギングデータが取得され始めた2004年以降は、経年変動を議論しうる融解量データセットが得られている。今後、融解量と海氷漂流・水塊変動の関係を解析していく予定である。
本研究で得られた全海氷融解量を計算したところ約17200 Gt/yrであった。この値は、南極氷床による淡水フラックスの約6倍にあたる量で、海氷融解が南大洋における淡水フラックスに大きく影響していることが示された。また、海氷生成量と合わせることではじめて観測データから、正味の海氷による淡水・塩フラックスの空間分布を示すことができた。沿岸域(特にポリニヤ域)において正味負の淡水フラックスが生じ、沖合で正味正の淡水フラックスが生ずるが、海氷発散域においても帯状に正味負の淡水フラックス(生成量 > 融解量)が生じていることが示唆された。
海氷生成量に関しては衛星データと熱収支計算を組み合わせた研究により、全球的にその分布や変動がわかってきたが、海氷融解量については、融解は不均一に起こり、衛星からの把握も難しいため、推定がなかなか困難な状況にある。近年、アザラシによるバイオロギングにより海氷下や冬季の現場データが取得できるようになったことやArgoデータの蓄積により、海氷下も含めた南大洋全体の全季節を網羅する現場データが揃いつつある。Pellichero et al.(2017)はこれらのデータすべて用いて、初めて観測ベースから、南大洋の海氷域の混合層の熱塩収支を論じ、海氷の生成・融解が熱塩収支に最も大きく貢献することを示し、海氷融解量分布も提示した。しかし、この手法から融解量を導出するには1年サイクルのデータを必要とし、冬季データの少なさから、導出された分布は空間分解能が低く、海氷融解量の経年変動までの議論は行っていない。
海氷が融解すると海洋上層には明瞭な低塩層が形成される。本研究では、この低塩層に着目して、データが大量に存在する春先の海氷融解期の現場データをすべて用いて、塩分プロファイルの形から直接的に海氷融解量を推定する手法を開発し、分解能のより高い海氷融解量分布及びその時空間変動を明らかにすることをめざす。海氷融解後には、結氷温度にある冬季水の上に塩分が大きく減じた層が出現するが、その塩分の欠損量を海氷融解量に変換することで融解量を推定する。この手法の鍵は、冬季水の最上部の深さを検出することである。塩分プロファイルのみでは表層の低塩分層が、海氷融解によるものか否かの判別が難しいことから、本研究では、水温プロファイルも用いて冬季水最上部を検出するアルゴリズムを開発した。
このアルゴリズムを使用して、南大洋の南緯54度以南11-3月の全データ約20万個から、海氷融解後でかつ冬季水最上部が明瞭に検出できるデータ約2万5千個のプロファイルを抽出し、融解量を推定した。次に、全推定データから海底地形に沿う方向に重みを大きくする手法(Shimada et al., 2017)により気候値グリッドデータを作成した。得られた空間分布は、3つのジャイヤの西側で融解量が大きい(約1.5m)という結果になり、Pellichero et al.(2017) による海氷融解量の空間分布より、コントラストを強めたような分布となった。さらに、氷厚最大となる10,11月におけるICESat衛星による氷厚分布によく対応した分布となり、平均氷厚80cmという値も推定した平均融解量(77cm)とよく合っている。海氷漂流速度データと合わせて比較すると、各ジャイヤにより沿岸域から海氷が沖合に漂流されて、そこで融解している可能性を見ることができた。一方アムンゼン海周辺においては、氷厚は大きいが融解量は小さい分布となる。この海域に関しては、3月の海氷密接度データから、海氷が融けきっておらず多年氷となっている場合が多いことが示され、そのため氷厚と融解量で分布が異なることが示唆された。Argoデータ及びアザラシによるバイオロギングデータが取得され始めた2004年以降は、経年変動を議論しうる融解量データセットが得られている。今後、融解量と海氷漂流・水塊変動の関係を解析していく予定である。
本研究で得られた全海氷融解量を計算したところ約17200 Gt/yrであった。この値は、南極氷床による淡水フラックスの約6倍にあたる量で、海氷融解が南大洋における淡水フラックスに大きく影響していることが示された。また、海氷生成量と合わせることではじめて観測データから、正味の海氷による淡水・塩フラックスの空間分布を示すことができた。沿岸域(特にポリニヤ域)において正味負の淡水フラックスが生じ、沖合で正味正の淡水フラックスが生ずるが、海氷発散域においても帯状に正味負の淡水フラックス(生成量 > 融解量)が生じていることが示唆された。