日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:関 宰(北海道大学低温科学研究所)、コンビーナ:菅沼 悠介(国立極地研究所)、箕輪 昌紘(北海道大学・低温科学研究所)、座長:飯塚 睦(北海道大学)、小林 英貴(東京大学大気海洋研究所)

10:00 〜 10:15

[MIS20-05] 間欠的降水イベントが南極ドームふじ氷床コア水同位体比から復元される最終氷期最盛期 (LGM) 気温にもたらす影響

*木野 佳音1,2岡崎 淳史3Cauquoin Alexandre1,2芳村 圭2,1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.東京大学生産技術研究所、3.弘前大学)

キーワード:アイスコア、水同位体、南極、気候モデル、ブロッキング現象、最終氷期最盛期 (LGM)

南極氷床コア水同位体比は、過去の気候変動指標として有用されている。その解釈には、水同位体比シグナルから気温を推定するレイリー型モデルも含めて、氷床コア水同位体比が南極内陸の平均的な気温を記録するとの “暗黙の仮定” を、長年に渡り適用してきた (e.g., Masson-Delmotte et al., 2010)。しかし、近年の観測充実から、総観規模大気循環に伴い数日スケールでイベント的に比較的大量の降水と昇温をもたらす現象が、南極内陸で頻繁にあることが明らかとなってきており、間欠的な降水現象を考慮しない従来的な水同位体比解釈を見直す必要が生じている (e.g., Turner et al., 2019) 。Kino et al. (2021) では、水同位体大気大循環モデル (MIROC5-iso; Okazaki and Yoshimura et al., 2019) を用い、総観規模大気循環に伴う数日スケールでの降水現象が、冬の南極降水同位体比に温暖バイアスを生じさせることを統計的に示した。特に、日本のドームふじ基地においては、SAM (南半球環状モード; 偏西風の指標) の符号 (正負) により、降水同位体比と現地気温の対応関係が遷移することを明らかにした。しかしながら、このようなイベント的な降水現象の季節性や頻度は、LGMのような時代では異なり得る。
本研究では、MIROC5-isoに2組の独立な海面水温と海氷分布 (Paul et al., 2021; Sherriff-Tadano et al., submitted) を適用し、LGM気候を再現した。結果として、現在気候で確認されたドームふじでの降水同位体比決定過程が、そのSAMとの関連性も含めて、LGMにおいても共通すると確認された。このことは、 “暗黙の仮定”がLGM推定気温に不確実性を生じさせることを示唆している。また、2つのLGM実験において、特にドームふじ周辺の降水同位体比が有意に異なっており (~30%)、その主要因は、南半球中緯度の海面水温勾配の違いが大気循環の平均場を変えることだった。また、この効果は、海氷分布の違いが水蒸気塊の輸送経路の環境を変えることにより増幅された。一方、両LGM実験間で振る舞いの異なったSAMによる非線形な効果は二次的だった。降水の間欠性を考慮せず “暗黙の仮定” を用いることでドームふじLGM推定気温に生じる不確実性は58–129 %と見積もられた。今後は、水同位体大気大循環モデルを用いたLGMアンサンブル実験による、不確実性の制約が期待される。
[1] Kino et al., J. Geophys. Res., 126(23). https://doi.org/10.1029/2021jd035397, 2021.
[2] Masson-Delmotte et al., Quat. Sci. Rev., 29(1), 113–128, https://doi.org/10.1016/j.quascirev.2009.09.030, 2010.
[3] Okazaki & Yoshimura, J. Geophys. Res., 124(16), 8972–8993. https://doi.org/10.1029/2018jd029463, 2019.
[4] Paul et al., Clim. Past, 17(2), 805–824. https://doi.org/10.5194/cp-17-805-2021, 2021.
[5] Sherriff-Tadano et al., submitted.
[6] Turner et al., Geophys. Res. Lett., 46(6), 3502–3511. https://doi.org/10.1029/2018gl081517, 2019.