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[MIS20-12] 最終退氷期における海洋炭素循環モデリング(2)
キーワード:海洋炭素循環、最終退氷期、南大洋、大西洋子午面循環
氷床コアに含まれる気泡の分析から、過去 80 万年間の気温変動(氷期-間氷期サイクル)に伴い、大気中二酸化炭素濃度は変動しており、氷期には間氷期に比べて約 90 ppm 低いことが明らかにされている。詳細なメカニズムは未だ完全に理解されていないが、その変動は主に海洋炭素循環の変動(海面水温、海洋表層の生物ポンプ、海洋深層循環、炭酸塩無機化学の変動など)に起因すると認識されている。筆者らの研究を含む近年の研究は、南大洋の変動が海洋全体の炭素循環の変動に重要であることを指摘している。その一方で、これらの帰結は主に平衡気候下における炭素循環の比較から導かれたものである。より現実に即して考えると、気候の時間変化の中で生じる炭素循環の過渡応答のメカニズムを明らかにしていく必要がある。本研究は、大気海洋結合モデルにより最終退氷期のベーリング・アレレード期における海洋深層循環と地上気温の変化を再現したモデル研究の結果を用いて、2万1千年前の最終氷期最盛期(LGM: Last Glacial Maximum)から1万1千前にかけての最終退氷期における海洋炭素循環の数値実験を行い、その過渡応答を調べた。予備的な数値実験の結果と考察から、最終退氷期における定性的な大気中二酸化炭素濃度の変化はおおよそ捉えていることがわかった。ハインリッヒ亜氷期1の大気中二酸化炭素濃度の上昇は、南大洋を中心とした海面水温上昇による二酸化炭素濃度の溶解度の低下の寄与が支配的である。また、数値実験で大西洋子午面循環の急激な変化が生じているベーリング・アレレード期とヤンガー・ドリアス期においては、大気中二酸化炭素濃度の変化が、水温・塩分の変化による溶解度の変化と、炭酸系溶存化学成分の分布の変化の相対的な寄与で決まることが示唆された。一方で、氷床コアデータでは、ハインリッヒ亜氷期1の中盤、終盤、ヤンガー・ドリアス期に、大気中二酸化炭素濃度の上昇がより急激になっているが、数値実験でその振幅は十分に再現できていない。感度実験から、退氷期における大気中二酸化炭素濃度の上昇する時期を決定する要因として、南大洋表層の鉛直混合が強まる時期が重要であることが示唆された。しかしながら、既存のモデル実験設定では、その時間変化をうまく捉えられていないと考えられる。現実的なシミュレーションに向けた今後の課題を議論する。