日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2022年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、コンビーナ:相木 秀則(名古屋大学)、座長:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

15:30 〜 15:45

[MIS21-01] 温度依存高粘性流体の熱対流の水平スケールとレジーム遷移

*奥田 尚1竹広 真一1 (1.京都大学数理解析研究所)


キーワード:マントル対流、スケーリング解析、横長対流セル、ヌセルト数

惑星内部のマントル対流の基本的な性質を調べるために, 高粘性かつ温度依存性の大きな流体の熱対流が研究されている. これまでに温度に対する粘性変化の大きさをパラメーターとした有限振幅熱対流の構造について, スケーリング解析と数値時間積分により調べられている(Solomatov, 1995など). 粘性変化が小さいレジーム(Small viscosity contrast regime: SVC)では粘性一定の熱対流と同様の上下対称な構造が出現する. 粘性変化が大きくなると低温である上面付近で粘性が大きいために速度が抑制された領域を伴う中間的なレジーム(Transitional regime: TR)となる. さらに粘性変化が大きくなると上面付近に流体が静止した領域(stagnant lid)を伴うレジーム(Stagnant lid regime: ST)となる. STレジームではlidの下の対流層がSVCレジームと相似な構造となっている. しかしながら, これまでの研究では対流の水平方向のスケールが考慮されていない. 一方で数値時間積分より, TRレジームとその周辺において水平スケールが大きい解が出現することが確認されている. そこで本研究では, 温度に依存して粘性が大きく変化する高粘性流体の熱対流問題について, 熱対流の水平スケールとレジームの関係を調べた.
まず, 定常状態の有限振幅対流解をNewton法によって数値的に求めた. この際, 領域の水平方向の大きさを変化させることによって解の水平波長を制御した. 温度依存性の大きさと解の水平波長をパラメーターとして各定常解の対流構造を分類し, 新たなregime diagramを作成した. さらに, 解の水平波長の安定性を調べることで非定常問題において実現する対流解の構造の遷移過程を特定した. この結果から, 時間積分によって得られる解がTRレジームを回避するようにSVC-TR境界上を遷移し対流の水平スケールが大きくなることが見出された.
次いで, これまでに考慮されていなかった解の水平波長をスケーリング解析に導入し, 新たに水平波長をパラメーターとして含むスケーリング則を導出した. Nusselt数のスケーリング関係に基づいてregime diagramを作成し, 数値的に得られた定常解に基づく結果と整合的であることを確認した. 加えて, 非定常問題ではNusselt数が最大となるような水平波長を持つ解が実現するという仮定の下で, スケーリング関係式から非定常問題の対流構造の遷移過程を見出した. その遷移過程では, 粘性変化が大きくなるとNusselt数最大の点がSVC内部の極大点, SVC-TR境界上, ST内部の極大点の順に移り変わる. この結果も上記の定常解に基づいて導出した遷移過程と整合的であった. さらに, SVC-TR境界に沿って遷移した水平波長の大きな解から粘性一定の場合と相似な構造を持つSTレジームの解への転換点と, これより実現可能な対流の水平波長の最大値を推定した.