日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2022年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、コンビーナ:相木 秀則(名古屋大学)、座長:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

16:15 〜 16:30

[MIS21-04] 2次元乱流の統計的平衡状態を数値計算するための新しい手法

*漁野 光紀1石岡 圭一1 (1.京都大学大学院理学研究科)


キーワード:2次元乱流、Miller-Robert-Sommeria理論、統計的平衡状態、混合エントロピー、Casimir不変量

Miller、Robert、Sommeriaによって提案された2次元乱流の統計力学理論において、球面上で渦度場の平衡状態を数値的に計算する方法を2種類提案する。ここで、渦度場の平衡状態とは、初期渦度場を保存則(エネルギー保存・角運動量保存・Casimir不変量の保存)の制約下で混合して得られる状態のうち、混合エントロピーという関数を最大化する状態として定義される。これまでに提案された手法では、計算量の観点またはアルゴリズムの性質から、一般的な初期渦度場に対して非帯状な統計的平衡状態を計算することが難しかった。我々の新たな手法によって、初期の渦度場が多レベルの渦度パッチから構成される場合においても、現実的な計算量で非帯状な統計的平衡状態を計算することが可能となる。さらに、平衡状態を複数計算することも可能であり、複数の平衡状態の相互の関係を従来の手法よりも明瞭にすることができる。提案した手法は、混合エントロピーの最大化における制約条件を緩めた問題を考え、異なる平衡解の分枝を数値的に追跡できる経路で繋ぐ方法(bridge-building method)と、巨視的渦度場のスペクトルを変数として扱い、勾配法により混合エントロピーを最大化する方法の2つである。前者は、逆温度βを導入して自由エネルギーを最大化するカノニカル問題に対するものである。後者は、射影勾配法の利用によってミクロカノニカル問題(エネルギー保存を課して、混合エントロピーを最大化する問題)を解くものである。ミクロカノニカル問題においては、混合エントロピー最大化の許容領域に気を配る必要がある。そこで、後者の手法は、許容領域および混合エントロピーの幾何学的な性質を考慮して設計されている。
本研究で提案した手法のテストのため、球面上の順圧不安定な帯状初期渦度場から生じる乱流状態の統計的平衡状態を計算した。結果として、初期渦度場の時間積分の結果と非常に類似した東西波数2型の平衡状態を得た。その一方、時間積分では現れない波数1型の構造を持つ状態も計算され、波数2型の平衡状態よりも高い混合エントロピーを持っていた。各平衡状態における混合エントロピーのHesse行列の固有値を計算することにより、波数1型の平衡状態は混合エントロピーの極大を与える点であり、波数2型の平衡状態は混合エントロピーの鞍点であることが明らかになった。時間積分において、渦度場が混合エントロピーの鞍点である波数2型の状態に組織化して落ち着いた理由は、初期渦度場が波数1型の擾乱に対して線型安定だったためと考えられる。