日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 歴史学×地球惑星科学

2022年5月27日(金) 15:30 〜 17:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、コンビーナ:芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)、コンビーナ:玉澤 春史(京都市立芸術大学)、座長:加納 靖之(東京大学地震研究所)、玉澤 春史(京都市立芸術大学)

15:30 〜 16:00

[MIS22-06] 歴史と地球惑星科学の融合による新たな風土論は可能か?
-建築・都市の観点から-

★招待講演

*林 憲吾1、田窪 淑子 (1.東京大学生産技術研究所)

キーワード:風土、建築、サイクロン

歴史学と地球惑星科学の融合には大きく二つの方向がある。一つは歴史史料から過去の自然環境を理解し、そのデータを基に地球規模かつ長期の視点から自然環境のメカニズムを解明すること。もう一つは、より精緻に再現される自然環境のモデルから歴史的な事象や文化的現象を理解することである。本発表では、建築や都市形態の観点から後者の可能性を議論してみたい。
哲学者・和辻哲郎は1935年の著作『風土』において、風土が人間の文化的活動と分かち難く結びついていると指摘し、モンスーン・砂漠・牧場の3類型からユーラシア大陸の文化を語った。環境とそこでの人々の生活や思考様式を単純化して関連づける和辻の論には批判も多い。しかし、例えばヴァナキュラー建築は、地域の環境条件や資源に適応して生み出されるものであり、環境と文化を一体で語る生態史やそれに基づく地域単位という考え方は、建築の地域比較史に有効であり、欧州や東アジアなどの政治経済的な地域単位を相対化する上でも重要な概念である。さらに言えば、現代都市の形態においてすら自然環境との関連は強い。例えば、稲作を中心とするモンスーンアジアの都市では、郊外への都市域の拡大や土地利用の混在度が高い傾向にある。このような風土に基づいた建築や都市の理解、さらにはそのグローバルヒストリーを描くためには、全球スケールの気候モデルなど地球惑星科学の研究と建築・都市史の融合が有効なのではないだろうか。地域間の自然環境の共通性や差異、時間軸に沿ったその変化に関する科学的知見は、和辻が提示したような生態的、文化的な圏域を考察するための新たな基盤になるだろう。グローバルスケールでの自然環境のモデリングの精緻化は、新たな風土論を導きえないだろうか。
本発表では、アラビア半島の伝統家屋の地域特性に関する研究を主な題材としながら、以上のような問題提起をおこないたい。アラビア半島南部は、半島内の他地域と同様に乾燥地域ではあるがサイクロン常襲地域でもある。こうした北部と南部での気候の差異と各地の建築形態や材料特性との関係をとおして、気候データが建築の地域間比較にいかに利用可能かを考察する。ただし、本発表は、気候モデルと建築の地域特性を融合させた研究ではなく、どのような融合の可能性があるかを提起するものである。