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[MIS24-05] 前期白亜紀メタン湧水性化石腹足類の分類-特にハイカブリニナ科腹足類Provannidaeに着目して-
キーワード:腹足類、化学合成生態系、前期白亜紀
プレートの沈み込み帯や大陸縁辺部に位置し,断層などに沿ってメタンを含んだ流体が湧出するメタン湧水場には,化学合成細菌の一次生産に依存する化学合成生態系が確認されている.同生態系は熱水噴出孔・鯨骨・沈木でも確認され,固有分類群も生息する独特の生態系が形成される.上記すべての化学合成生態系に生息する固有分類群として,腹足綱ハイカブリニナ科Provannidaeがいる.彼らは現在の化学合成生態系に属する腹足類の代表格であり,現生Provannidaeの研究は近年進んできたものの,その起源や進化過程などに関する古生物学的検討は十分ではない.なおProvannidaeの化石記録は後期白亜紀中期セノマニアン期まで遡れる(Kaim et al., 2008).北海道夕張市歌越沢には古生物学的調査が十分に行われていない前期白亜紀のメタン湧水性炭酸塩岩が分布する.本研究では本岩体を対象に,腹足類化石群集の分類学的研究を行い,その中でも現在の化学合成生態系を特徴付ける腹足類であるProvannidaeの起源や初期進化を追究した.研究には歌越沢での野外調査で採取した転石を使用したが,転石は分布などからすべて歌越沢上流部のアルビアン階上部と考えられる巨大炭酸塩岩露頭に由来したと考えている.転石から剖出した放散虫化石群集の予察的検討も矛盾ない結果が得られている.腹足類化石はシリカに置換していたため,酸処理により化石を剖出した.その結果,ProvannidaeおよびHokkaidoconchidaeを含む少なくとも13種の腹足類化石を得ることができた.そのうち,最も多産した腹足類はProvannidaeおよび彼らの祖先的分類群(Kaim et al., 2013)であるHokkaidoconchidaeとの中間形態を持つ種であった.また Provannidaeの産出は本科の最古の記録であり,本科の化石記録は後期白亜紀中期セノマニアン期から前期白亜紀アルビアン期後期へと更新された.さらに本研究で多産したProvannidaeとHokkaidoconchidaeの中間的形質を持つ腹足類の存在は,アルビアン期後期においてProvannidaeがHokkaidoconchidaeから派生していたことを裏付ける.派生過程において,原殻の格子状彫刻の明瞭化や円筒型から細長い形への殻外形変化,終殻の螺肋の明瞭化などが起きたと考えられる.以上,本研究により,Provannidaeの起源と初期進化の一端を解明できた.