日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 惑星火山学

2022年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、コンビーナ:下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

10:15 〜 10:30

[MIS25-06] 静かの海の縦孔で何を観測すべきか?

★招待講演

*白尾 元理

キーワード:静かの海、縦穴、楯状火山、リゴリス

2009年,SELENE(愛称「かぐや」)搭載の地形カメラ(解像力10m)によって静かの海に大きな縦穴(MTH:hole in Mare Tranquillitatis)が発見された.春山他(2009)はこれを溶岩チューブに空いた天窓ではないかと推定した.その後,MTHは米国LROの望遠カメラ(解像力0.5~2m)によって詳しく撮像され,以下のことがわかった.MTHは直径100×105m・深さ105m,穴の垂直の壁には層状構造があること,底には大きな空間が広がっていること.月の火山活動は長い間,割れ目からの洪水玄武岩の噴出が卓越すると考えられていた.しかし最近では小型楯状火山が海の火山活動に重要な役割を担っていることが明らかになってきた.MTHの付近には多数の小型楯状火山が発見されている(Spudis他, 2013, Head他, 2021).日本の研究者は月や惑星の地下洞窟を探査するために研究グループを立ち上げ,「古事記」と「日本書紀」に登場する女神にちなんで「UZUME」計画と名づけた.UZUMEの研究グループはMTHの底に直接着陸し、穴の壁や底部を観測する計画を立案している.月には流水や風がなく,構造運動もほとんどないので,断面を観察することによって地質調査できる露頭がほとんどない.その点でMTHは月面で最良・最大の天然の露頭ということができる.私は小型カメラによってMTHの層状の壁の溶岩層と古リゴリス層の厚さや堆積様式を調べることを提案する.重要な観測項目は以下の通り.1)溶岩層は,薄いが多数の複合溶岩であるか,それとも厚いインフレーション溶岩であるか.2)縦穴の壁の全周を撮影して溶岩層の厚さを測定し,給源が1つかそれとも複数かを判定する.3)古レゴリス層の厚さを測定する.溶岩層の間に挟まれた古レゴリス層の厚さは,溶岩が流れ,次の溶岩に覆われるまでの時間間隙を推定する重要なツールとなる.1cm以上の古レゴリス層は,数百万年間の時間間隙を示す目安となり得る.小型カメラによって得られるこれらのデータは月の海の火山活動の噴火様式,噴出量,タイムスケールを理解する大きな手がかりとなるだろう.