11:00 〜 13:00
[MIS25-P01] 月・縦孔露頭の溶岩層厚さによる溶岩降伏値と溶岩流停止温度の推定
キーワード:月縦孔、溶岩流、降伏値、溶岩温度
[はじめに]
月の溶岩流降伏値については昔からいくつかの推定値が月の溶岩流の外観厚さから得られており,その値は4000 dyne/cm2 (1),1000~2000 dyne/cm2 (2),などである.一方,月の縦孔がHaruyama et al(3~5)らに発見されたのちLROにより縦孔の断面が撮像され露頭断面層のおおよその推定溶岩層厚さがRobinson et al(6)から報告されている.ここでは縦孔の推定されている露頭溶岩断面厚さから溶岩降伏値を求め,溶岩流外観厚さから求められている降伏値との比較を行った.さらに,妥当と考えられる月の溶岩の降伏値の温度依存性を仮定して,月の溶岩流停止時の溶岩流温度の推定を試みた.
[月・縦孔の露頭の溶岩層厚さと傾斜角度による溶岩降伏値]
月・Marius Hills Hole(MHH)の縦孔断面の層状溶岩(図1)は4m~12m厚(平均6m厚)の溶岩層(Robinson(6))からなる.ここでは平均厚H=6mとRille-A地域の傾斜角αとして0.31度(Greeley(7))を使うと,simple flowの溶岩流停止条件(8)から,fB=ρgHsinα=1310 dyne/cm2(本多(9))が得られる.ここで密度ρ=2.5g/cm3,表面重力g=162 cm/s2とした.溶岩流の外観から得られている降伏値1000dyne/cm2に近い値を示している.溶岩層断面から見る溶岩流がsimple flowかmultiple flowかinflationを起こしているか断面観察で判断できるかが課題となる.
[月の溶岩降伏値と溶岩流停止温度]
溶岩降伏値の温度依存式が得られていれば溶岩の温度を推定できる可能性がある.地球上の例として,伊豆大島三原山1951年溶岩流における石原和弘他(10)の降伏値温度依存式logfB=13.67-0.0089θがある.ここで,θは摂氏温度,fBはdyne/cm2.表1に粘性係数(11,12)とともに三原山1951年溶岩流温度と降伏値の関係を示す.月の溶岩降伏値については降伏値温度依存式が存在しないが,地球の玄武岩溶岩の粘性係数と比較して,月のApollo-11,12採取溶岩の粘性係数(13)は十分の一か,場合によっては百分の一になる場合もある.月の粘性係数(13)は表1に見る伊豆大島三原山1951年溶岩流より一桁ほど小さいので,降伏値も一桁小さいと想定して,式logfB=13.67-0.0089θの定数を13.67から12.67とした式を用いた.さらに二桁小さくなることも想定して,定数を11.67とした式も用いた.その結果を表2に示す.月溶岩の降伏値範囲1000~4000dyne/cm2に対して推定される溶岩流停止温度は②,③に見るように1000℃前後となる.
[おわりに]
伊豆大島三原山1951年溶岩流に基づく仮定データによる月溶岩の溶岩流停止温度は1000℃前後と想定される.月溶岩の降伏値の温度依存データはあらかじめ合成溶岩かサンプリングした溶岩で得ておく必要がある.いずれにしろ探査による縦穴のより正確な露頭断面の層序構成と厚さ,化学組成,露頭断面各層の傾斜角度のデータ取得が望まれる.
参考文献:
(1) G.Schaber(1973): Proc.4th Lunar Science Conference, 73-92
(2) H.J.Moore and G.G.Schaber: Proc.Lunar Sci.Conf.6th,pp101-118,1975
(3)J.Haruyama, et al(2009): Geophysical Research Letters, Vol.36,L21206,2009.
(4)J.Haruyama, et al(2010): 41st Lunar Planetary Science Conference,Abstract 1285,2010.
(5)J.Haruyama, et al(2012): Moon,Chap6,pp139-163,Springer,2012.
(6)M.S.Robinson, et al(2012): Planetary and Space Science 69,pp18-27,2012
(7) R.Greely(1971):The Moon, Volume 3, Issue 3, pp.289-314,1971
(8) G.Hulme(1974): Geophys.J.R.Astr.Soc.,Vol.39,pp361-383,1974.
(9)本多力(2017):地球惑星科学連合大会JPGU(2017),SVC50-05
(10)石原和弘,他(1988):火山,第2集,第33巻,伊豆大島噴火特集号,S64
(11)T.Minakami(1951):東大地震研彙報29,487
(12)T.Minakami,S.Sakuma(1953):Bull.Volc.14,79-132
(13)D.Williams,et al(2000):J.G.R,vol.105,No.E8,pp20189-20205
月の溶岩流降伏値については昔からいくつかの推定値が月の溶岩流の外観厚さから得られており,その値は4000 dyne/cm2 (1),1000~2000 dyne/cm2 (2),などである.一方,月の縦孔がHaruyama et al(3~5)らに発見されたのちLROにより縦孔の断面が撮像され露頭断面層のおおよその推定溶岩層厚さがRobinson et al(6)から報告されている.ここでは縦孔の推定されている露頭溶岩断面厚さから溶岩降伏値を求め,溶岩流外観厚さから求められている降伏値との比較を行った.さらに,妥当と考えられる月の溶岩の降伏値の温度依存性を仮定して,月の溶岩流停止時の溶岩流温度の推定を試みた.
[月・縦孔の露頭の溶岩層厚さと傾斜角度による溶岩降伏値]
月・Marius Hills Hole(MHH)の縦孔断面の層状溶岩(図1)は4m~12m厚(平均6m厚)の溶岩層(Robinson(6))からなる.ここでは平均厚H=6mとRille-A地域の傾斜角αとして0.31度(Greeley(7))を使うと,simple flowの溶岩流停止条件(8)から,fB=ρgHsinα=1310 dyne/cm2(本多(9))が得られる.ここで密度ρ=2.5g/cm3,表面重力g=162 cm/s2とした.溶岩流の外観から得られている降伏値1000dyne/cm2に近い値を示している.溶岩層断面から見る溶岩流がsimple flowかmultiple flowかinflationを起こしているか断面観察で判断できるかが課題となる.
[月の溶岩降伏値と溶岩流停止温度]
溶岩降伏値の温度依存式が得られていれば溶岩の温度を推定できる可能性がある.地球上の例として,伊豆大島三原山1951年溶岩流における石原和弘他(10)の降伏値温度依存式logfB=13.67-0.0089θがある.ここで,θは摂氏温度,fBはdyne/cm2.表1に粘性係数(11,12)とともに三原山1951年溶岩流温度と降伏値の関係を示す.月の溶岩降伏値については降伏値温度依存式が存在しないが,地球の玄武岩溶岩の粘性係数と比較して,月のApollo-11,12採取溶岩の粘性係数(13)は十分の一か,場合によっては百分の一になる場合もある.月の粘性係数(13)は表1に見る伊豆大島三原山1951年溶岩流より一桁ほど小さいので,降伏値も一桁小さいと想定して,式logfB=13.67-0.0089θの定数を13.67から12.67とした式を用いた.さらに二桁小さくなることも想定して,定数を11.67とした式も用いた.その結果を表2に示す.月溶岩の降伏値範囲1000~4000dyne/cm2に対して推定される溶岩流停止温度は②,③に見るように1000℃前後となる.
[おわりに]
伊豆大島三原山1951年溶岩流に基づく仮定データによる月溶岩の溶岩流停止温度は1000℃前後と想定される.月溶岩の降伏値の温度依存データはあらかじめ合成溶岩かサンプリングした溶岩で得ておく必要がある.いずれにしろ探査による縦穴のより正確な露頭断面の層序構成と厚さ,化学組成,露頭断面各層の傾斜角度のデータ取得が望まれる.
参考文献:
(1) G.Schaber(1973): Proc.4th Lunar Science Conference, 73-92
(2) H.J.Moore and G.G.Schaber: Proc.Lunar Sci.Conf.6th,pp101-118,1975
(3)J.Haruyama, et al(2009): Geophysical Research Letters, Vol.36,L21206,2009.
(4)J.Haruyama, et al(2010): 41st Lunar Planetary Science Conference,Abstract 1285,2010.
(5)J.Haruyama, et al(2012): Moon,Chap6,pp139-163,Springer,2012.
(6)M.S.Robinson, et al(2012): Planetary and Space Science 69,pp18-27,2012
(7) R.Greely(1971):The Moon, Volume 3, Issue 3, pp.289-314,1971
(8) G.Hulme(1974): Geophys.J.R.Astr.Soc.,Vol.39,pp361-383,1974.
(9)本多力(2017):地球惑星科学連合大会JPGU(2017),SVC50-05
(10)石原和弘,他(1988):火山,第2集,第33巻,伊豆大島噴火特集号,S64
(11)T.Minakami(1951):東大地震研彙報29,487
(12)T.Minakami,S.Sakuma(1953):Bull.Volc.14,79-132
(13)D.Williams,et al(2000):J.G.R,vol.105,No.E8,pp20189-20205