日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD42] 将来の衛星地球観測

2022年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、コンビーナ:高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、コンビーナ:Sobue Shinichi(Japan Aerospace Exploration Agency)、コンビーナ:小原 慧一(宇宙航空研究開発機構)、座長:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

11:30 〜 11:45

[MSD42-09] 衛星搭載水蒸気観測用差分吸収ライダー(DIAL)の技術実証〜地表面のレーザ反射光を利用した低層水蒸気観測の検討〜

*阿保 真1長澤 親生1柴田 泰邦1、内野 修2、酒井 哲3、柴田 隆4勝俣 昌己5 (1.東京都立大学大学院システムデザイン研究科、2.国立環境研究所、3.気象研究所、4.名古屋大学、5.海洋研究開発機構)

キーワード:水蒸気、ライダー、豪雨

現状では温暖化の議論に耐える地球全域に亘る水蒸気分布の観測データが不足しており、水蒸気フィードバックや雲フィードバックに関して精度の高い議論はできていない。衛星搭載ライダーで全球的な水蒸気観測を行い、水蒸気のフィードバックプロセスの理解を進めることにより、地球温暖化シナリオで現実的な水蒸気の増加レベルをシミュレーションすることが可能となる。
 一方近年日本では線状降水帯による豪雨の発生や台風の大型化が防災面から大きな社会問題となっている。日本における豪雨災害は年々増加しており防災・減災、国土強靱化のための対策は緊急性が高い。これらの災害は予測精度を上げることにより減災が可能であるが、予測には特に海上の下部対流圏の水蒸気分布情報が重要であることが指摘されている。衛星搭載ライダーは日本周辺海上の水蒸気観測が可能であり、数値予報モデルへのデータ同化により予測精度の向上が期待できる。
 現在の水蒸気観測は、ラジオゾンデ、地上リモートセンシング、衛星赤外線/マイクロ波センサにより行われているが、空間及び時間分解能に問題がある。さらに上部対流圏・下部成層圏の境界領域に空白域がある。また、受動的衛星観測は水平方向のカバー領域は広いが、鉛直分解能が不十分である。グローバルな水蒸気循環を定量的に評価するためには、精度、鉛直分解能及びカバーレンジが不足している。衛星搭載ライダーは、全球域の高分解能・高品質水蒸気データを提供するとともに、バイアス誤差が無いためパッシブリモートセンシング機器の校正にも利用できるとともに、衛星搭載センサによる面的な観測とのシナジー効果が期待できる。
 我々は、以下のような水蒸気観測ライダーミッションを提案している。
・衛星は太陽非同期準回帰軌道を用い、高度250km、傾斜角35°、ビーム天底角22°の2ビーム測定
・センサである水蒸気差分吸収ライダー(DIAL)の主な仕様は、望遠鏡口径0.8m、レーザ出力20mJ、波長1336nm、繰返し周波数500Hz(on/offペア)、電力240W
夏季日本水蒸気モデルを用いた誤差シミュレーション(添付図)より、水平分解能20km、高度分解能300mで高度300mから2kmまで、高度分解能600mで600mから4kmまで誤差10%以下で水蒸気の測定が可能である。WMOの水蒸気観測要求分解能で熱帯水蒸気分布モデルを用いると、3つの吸収線で高度20kmの下部成層圏まで誤差20%以下で計測可能である。
 これまでに、航空機搭載水蒸気DIALを大学、研究所、JAXA(NASDA)で開発し、試験観測に成功した実績がある。衛星搭載と対流圏界面高度の水蒸気観測を考慮した場合、DIALでは1350nm付近の吸収線の利用が有効であるが、この波長はCO2ライダー開発により実績があるQPM-OPA方式で容易に得ることが可能である。すでに航空機搭載を目指した本方式の水蒸気DIAL開発に着手している。
 広範囲な水蒸気の衛星観測計測手法の一つとしてGNSS掩蔽観測、マイクロ波サウンダー、赤外サウンダーがある。これらに対してライダー観測のAdvantageは低層の高分解観測である。豪雨予測の下層水蒸気の流入や海洋-大気間のフラックス観測のためには海面近傍の水蒸気量の観測が重要である。そこで、提案している水蒸気観測ライダーミッションの仕様は変えずに、地表面(海面または地面)のレーザ反射拡散光と大気散乱光を併用した低層水蒸気のDIAL観測可能性を検討した。
地表面の反射光を利用するDIALは一般にIPDA(Integrated Path Differential-Absorption Lidar)と呼ばれており、高度分解しない大気成分の気柱量を計測する装置が航空機搭載型として用いられている。水蒸気は下層ほど濃度が濃いのが一般的であるが、その高度分布は時間的にも空間的にも変動が大きいため、一般的なIPDAのパッシブセンサに対するAdvantageは低い。今回の提案は大気散乱光に比べて強い信号が得られる地表面の反射光強度と、大気散乱光強度を利用して差分吸収を求める方法で、従来のDIALより精度良く地表面から高度数100mの範囲の水蒸気を計測が可能である。誤差シミュレーション結果より、地表から200mまでの水蒸気量を誤差10%、地表から600mまでを誤差 3%で観測可能(添付図)であり、従来のDIALよりも低高度領域の測定範囲と測定精度が向上することが分かった。
参考文献
阿保真他、衛星搭載差分吸収ライダーによるグローバルな水蒸気分布観測の提案、レーザセンシング学会誌、Vol.1, No.2, p.72, 2020.