日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT44] 地球化学の最前線

2022年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、コンビーナ:小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、コンビーナ:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、コンビーナ:横山 哲也(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

10:15 〜 10:30

[MTT44-05] 地球惑星科学試料分析に最適な新たなX線顕微鏡の紹介とその実分析結果の報告

*菅 大暉1,2、関澤 央輝1安武 正展1、山添 康介1、大浦 正樹2為則 雄祐1 (1.高輝度光科学研究センター、2.理化学研究所 放射光科学研究センター)

キーワード:X線顕微分光、放射光、STXM、TXM、SFXM、隕石

近年では、地球惑星科学試料分析においても走査型透過X線顕微鏡(Scanning Transmission X-ray Microscopy: STXM)の使用が広く普及しつつある。SPring-8ではSTXMと同程度の空間分解能(数十から数100 nm)を持つ相補的なX線顕微鏡として全視野型透過型X線顕微鏡 (Transmission X-ray Microscopy: TXM) と走査型蛍光X線顕微鏡(Scanning Fluorescence X-ray Microscopy: SFXM) の開発が進められており、それぞれがSTXMには無い特徴的を持っている(注釈1)。本発表では、STXMとの比較を含めてこれら2つのX線顕微鏡の詳細を紹介し、これを用いた地球惑星科学試料(隕石)の予備分析結果についても報告する。
TXMの実験はBL27SUのCブランチで行われており、1sの測定時間で50 x 50 μmの視野に対して空間分解能100 nm以下での試料観察を実現している。STXM同様にX吸収端近傍微細構造解析(XANES)と組み合わせることができる。TXM-XANESでは全視野型の特徴を活かして、広い視野での化学状態分析がSTXMよりも短時間に行えるなどの利点がある。今回、試験的にNWA 7312(超苦鉄質エコンドライト)を分析し、オリビン中に生じた粒子状の鉄含有鉱物(おそらく硫化物)とオリビン周囲の鉄含有リムの空間分布を明らかにする事ができた。
SFXMはBL17SUのAブランチに設置されており、STXMと同様に走査型のX線顕微鏡であるが、蛍光法による元素分布を測定するため、主要元素だけでなく、1000 ppmオーダーの微量元素の分析も可能である。また、試料の表面が平滑であれば分析が可能で、ウルトラミクロトームや収束イオンビーム(FIB)などで超薄切片化などの追加加工をする必要が無いため、貴重な試料を用いることも多い地球惑星科学分野にとっては利点となる。蛍光X線検出を活かして微量元素を測定する場合はステップスキャンで1測定点当たりの測定時間を1s程度に設定して十分な蛍光X線強度を稼ぐためSTXMより測定時間がかかるものの、岩石研磨薄片や研磨チップ試料のまま200-400 nmに集光したX線を用いた分析が実施できる試料準備の容易さから、手軽にサブミクロン程度の構造観察や微量元素分析を行いたい場合は本装置の利用が望ましい。本発表ではSFXM-XANESにより火星隕石ナクライトに属するY000593中のイディングサイト脈中の粘土鉱物とアモルファスシリカ脈を測定し、粘土鉱物の同定とアモルファスシリカの化学状態分析を行った例を紹介する。

注釈1: 軟X線領域(280~3000 eV)ではBL27SUにて約10 μmの空間分解能を持つSFXM実験がこれまでにも実施可能であり、微量元素の化学種解析などに活用されてきた。また硬X線領域(4500 eV~)ではBL37XUなどに同様の装置があり、地球科学や環境科学のみならず、次世代電池材料や磁性材料に至るまで幅広い分野で活発なユーザー利用が行われている。