日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT44] 地球化学の最前線

2022年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、コンビーナ:小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、コンビーナ:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、コンビーナ:横山 哲也(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、横山 哲也(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

10:45 〜 11:15

[MTT44-06] アイソトポログによる大気硫黄循環変動の解析

★招待講演

*服部 祥平1 (1.南京大学, 国際同位体効果研究センター)

キーワード:硫酸エアロゾル、硫黄循環、三酸素同位体組成、質量非依存分別、凝集同位体、アイソトポログ

大気硫黄循環は、対流圏および成層圏における硫酸(SO42−)エアロゾルの形成を関わるため、 気候変動や大気汚染に関係する重要な対象です (Fig. 1)。私は自ら開発した安定同位体分子種(isotopologues, アイソトポログ)の分析化学的手法を用いて、大気硫黄循環研究を行ってきました。大気試料やアイスコア試料中に含まれる硫黄化合物の安定同位体分子を分析することで、過去から現在までのエアロゾル動態の変化とその環境変動(人間活動・氷期-間氷期変動・大規模火山噴火など)との関連の理解を目指しています。
 本発表では、これまで行ってきた酸素や硫黄の質量非依存分別(MIF)を用いた硫酸エアロゾルや関連物質(硫化カルボニル[OCS])の起源・生成過程の追跡に関する以下の3点の研究を紹介します: (1) 地球寒冷化をもたらす大規模火山噴火の特定と規模復元 (Hattori et al. 2013 PNAS; Gautier et al. 2019 Nature Comm.); (2) 硫黄同位体組成に基づく硫化カルボニルミッシングソースの特定 (Hattori et al. 2015 Anal. Chem.; Hattori et al. 2020 PNAS); (3) 大気酸性度が駆動する硫酸エアロゾル生成とケミカルフィードバック機構の解明 (Hattori et al. 2021 Science Advances; Wang et al. 2021 Atmos. Chem. Phys.)。単にこれまでの研究例を紹介するのではなく、大気化学研究に地球化学分析を応用する中で気づいた地球化学手法の利点と問題点の双方にも触れたいと思います。そして、次の研究展開に必要なアプローチや、次の世代を牽引する地球化学者に必要なスキルやメンタリティについても、現時点で考えていることを論じたいと思います。
 また、私は2022年1月より南京大学 (Nanjing University)の国際同位体効果研究センター(International Center for Isotope Effects Research (ICIER): https://www.icier-nju.org/)に異動しました。教育としては地球科学与工程学院 (School of Earth Sciences and Engineering)に所属しています。ICIERは同位体が変化するメカニズムである『同位体効果』自体に着目・特化した世界的にも珍しい研究所です。基礎的な同位体効果の理解を研究所のベースとして共有しつつ、私自身は独自の分析手法・指標開発に基づく環境地球化学(特に大気化学・極域化学・生物地球化学)の現象解明へ応用していこうと思っています。これまで対象としてきたMIFにとどまらず、凝集同位体(Clumped isotope)の分析や分子内同位体分布の分析(PSIA)も対象とし、どこどこ圏(~sphere)に捉われない同位体地球化学の最前線の研究を目指します。発表においても、最近取り組み始めたオービトラップ質量分析計やマルチコレクター型ICP-MSを用いた、液体導入によるオキシアニオン(SO42−, NO3, PO43−, ClO4, MSA など)のアイソトポログ分析に関する研究進捗や展望も紹介します。