11:15 〜 11:30
[MTT44-07] 東シナ海においてマンガンの動態がコバルトの分布に与える影響
キーワード:マンガン、コバルト、東シナ海、沖縄トラフ、黒潮、揚子江
【目的】
マンガン(Mn)とコバルト(Co)は植物プランクトンにとって重要な栄養塩である。例えば、CoはビタミンB12の生産に必要とされ、Mnは光合成に不可欠な元素である。海洋におけるMnとCoは主に沿岸域から供給され、海流によって外洋まで運ばれている。しかし、MnとCoの海水中の滞在時間は他の微量金属元素のより遥かに短い。これはMn(II)が好気的条件においてMn(III)またはMn(IV)に酸化されやすく、Mn酸化物の形成によってMnが溶存態から粒子態に変換するためである。Mnの酸化に関与するバクテリアはCo(II)を同時に酸化し、Co(III)として酸化物に共沈させる可能性がある。そのため、様々なMnの供給源が存在する沿岸域においてCoの挙動は大きく変化する可能性がある。そこで、本研究では、広い陸棚、複雑な海底地形および独特な海流系を有する縁辺海である東シナ海において、MnとCoの供給源を明らかにし、Mnの供給と酸化によるCoの挙動変化を解明する。
【実験方法】
海水中の溶存態Mnはキレート樹脂(NOBIAS PA-1)によって抽出した後、ICP質量分析計(NexION 2000, Perkin ElmerまたはElement XR, Thermo Fisher)で定量した。前処理において、海水試料(30 mL; pH = 2)のpHはアンモニア水と酢酸アンモニウム緩衝液でpH 6.0に調整した。キレート樹脂はアセトン(10 mL)および2 M 硝酸(5 mL)で洗浄し、酢酸アンモニウム緩衝液でpH = 6.0に調整した。その後、樹脂に海水試料と酢酸アンモニウム緩衝液をそれぞれ通液した。最後に、2 M 硝酸を5 mL通液し、回収した溶離液中に含まれるMnをICP質量分析法によって定量した。
一部の海水試料中の溶存態CoはMnと同様にキレート樹脂によって抽出し、ICP質量分析計(NexION 2000, Perkin Elmer)によって定量した。その他の試料中のCo濃度はカソーディックストリッピングボルタンメトリー法によって測定した。前処理において、海水試料を紫外線で照射し、試料中の有機配位子を分解した。その後、海水試料(pH = 2)をアンモニア水及び塩化アンモニウム緩衝液によってpH = 9.0に調整し、Coの配位子であるニオキシムを添加してボルタンメトリーで測定した。
【実験結果・考察】
東シナ海の表層水におけるMnとCoは塩分と負の相関を示した(R2値はそれぞれ0.91と0.94)。これは東シナ海に流入する最大級の河川である揚子江が高濃度のMnとCoを供給したと考えられる。表層水のMnとCoの濃度は比較的高く、酸化によるMnとCoの除去の影響は観測されなかった。Mn酸化物は光照射によって還元されるため、表層水ではMnの酸化物がほとんど存在しないと考えられる。Mn酸化物を形成しない表層水においてはCoの酸化も進行しない可能性がある。また、表層水には、微生物や陸由来の有機物が豊富であるため、MnとCoは酸化されにくい有機錯体として存在する可能性もある。
陸棚から離れると中層水におけるCoはリン酸塩(PO4)と強い正の相関を示した(R2 = 0.92;Co/PO4 = 17 μmol mol-1)。この相関は北太平洋亜熱帯において水深200-1000 mの間で観測されたが、東シナ海においては水深200-500 mの間にしか見られなかった。東シナ海の中層水は北太平洋亜熱帯から黒潮に沿って流入する中層水に起源を持つが、台湾の西部海域では700 mの深さの海底地形(シル; sill)によって、700 m以深の中層水の流入が阻止されている。黒潮がシルを通過した際、海底堆積物の巻き込みにより、水深700 m付近の中層水におけるMn濃度が急増したと考えられる。それに対し、Co/PO4比は急激に減少し、黒潮沿いの中層水におけるCo/PO4比は他の測点より有意に低かった。これはMnの大量供給と酸化によりCoが酸化され、酸化物として溶存態から除去されたからと考えられる。また、Coの化学形態別分析より、中層水におけるCo有機配位子は比較的に弱い錯生成能力を持つことが明らかとなり、MnによるCoの酸化を阻止できない可能性を示唆した。
東シナ海の西部の海底熱水活動の活発な沖縄トラフにおいてはMn濃度の増加が観測されたが、Co濃度は有意な変化が観測されなかった。一般に海底熱水はMnを含む多くの微量金属元素を供給するが、沖縄トラフにおいてはCoの供給が観測されなかった。そのため、MnとCoの供給の違いに関しては二つの可能性がある:(1)沖縄トラフにおける海底熱水は大きなCo供給源ではない、(2)供給されたCoは直ちに大量のMnと共に酸化され、酸化物として海底に共沈した。
マンガン(Mn)とコバルト(Co)は植物プランクトンにとって重要な栄養塩である。例えば、CoはビタミンB12の生産に必要とされ、Mnは光合成に不可欠な元素である。海洋におけるMnとCoは主に沿岸域から供給され、海流によって外洋まで運ばれている。しかし、MnとCoの海水中の滞在時間は他の微量金属元素のより遥かに短い。これはMn(II)が好気的条件においてMn(III)またはMn(IV)に酸化されやすく、Mn酸化物の形成によってMnが溶存態から粒子態に変換するためである。Mnの酸化に関与するバクテリアはCo(II)を同時に酸化し、Co(III)として酸化物に共沈させる可能性がある。そのため、様々なMnの供給源が存在する沿岸域においてCoの挙動は大きく変化する可能性がある。そこで、本研究では、広い陸棚、複雑な海底地形および独特な海流系を有する縁辺海である東シナ海において、MnとCoの供給源を明らかにし、Mnの供給と酸化によるCoの挙動変化を解明する。
【実験方法】
海水中の溶存態Mnはキレート樹脂(NOBIAS PA-1)によって抽出した後、ICP質量分析計(NexION 2000, Perkin ElmerまたはElement XR, Thermo Fisher)で定量した。前処理において、海水試料(30 mL; pH = 2)のpHはアンモニア水と酢酸アンモニウム緩衝液でpH 6.0に調整した。キレート樹脂はアセトン(10 mL)および2 M 硝酸(5 mL)で洗浄し、酢酸アンモニウム緩衝液でpH = 6.0に調整した。その後、樹脂に海水試料と酢酸アンモニウム緩衝液をそれぞれ通液した。最後に、2 M 硝酸を5 mL通液し、回収した溶離液中に含まれるMnをICP質量分析法によって定量した。
一部の海水試料中の溶存態CoはMnと同様にキレート樹脂によって抽出し、ICP質量分析計(NexION 2000, Perkin Elmer)によって定量した。その他の試料中のCo濃度はカソーディックストリッピングボルタンメトリー法によって測定した。前処理において、海水試料を紫外線で照射し、試料中の有機配位子を分解した。その後、海水試料(pH = 2)をアンモニア水及び塩化アンモニウム緩衝液によってpH = 9.0に調整し、Coの配位子であるニオキシムを添加してボルタンメトリーで測定した。
【実験結果・考察】
東シナ海の表層水におけるMnとCoは塩分と負の相関を示した(R2値はそれぞれ0.91と0.94)。これは東シナ海に流入する最大級の河川である揚子江が高濃度のMnとCoを供給したと考えられる。表層水のMnとCoの濃度は比較的高く、酸化によるMnとCoの除去の影響は観測されなかった。Mn酸化物は光照射によって還元されるため、表層水ではMnの酸化物がほとんど存在しないと考えられる。Mn酸化物を形成しない表層水においてはCoの酸化も進行しない可能性がある。また、表層水には、微生物や陸由来の有機物が豊富であるため、MnとCoは酸化されにくい有機錯体として存在する可能性もある。
陸棚から離れると中層水におけるCoはリン酸塩(PO4)と強い正の相関を示した(R2 = 0.92;Co/PO4 = 17 μmol mol-1)。この相関は北太平洋亜熱帯において水深200-1000 mの間で観測されたが、東シナ海においては水深200-500 mの間にしか見られなかった。東シナ海の中層水は北太平洋亜熱帯から黒潮に沿って流入する中層水に起源を持つが、台湾の西部海域では700 mの深さの海底地形(シル; sill)によって、700 m以深の中層水の流入が阻止されている。黒潮がシルを通過した際、海底堆積物の巻き込みにより、水深700 m付近の中層水におけるMn濃度が急増したと考えられる。それに対し、Co/PO4比は急激に減少し、黒潮沿いの中層水におけるCo/PO4比は他の測点より有意に低かった。これはMnの大量供給と酸化によりCoが酸化され、酸化物として溶存態から除去されたからと考えられる。また、Coの化学形態別分析より、中層水におけるCo有機配位子は比較的に弱い錯生成能力を持つことが明らかとなり、MnによるCoの酸化を阻止できない可能性を示唆した。
東シナ海の西部の海底熱水活動の活発な沖縄トラフにおいてはMn濃度の増加が観測されたが、Co濃度は有意な変化が観測されなかった。一般に海底熱水はMnを含む多くの微量金属元素を供給するが、沖縄トラフにおいてはCoの供給が観測されなかった。そのため、MnとCoの供給の違いに関しては二つの可能性がある:(1)沖縄トラフにおける海底熱水は大きなCo供給源ではない、(2)供給されたCoは直ちに大量のMnと共に酸化され、酸化物として海底に共沈した。