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[MTT44-08] Bragg型分光器を用いた高エネルギー分解能蛍光検出XANESによる天然試料中の微量ユウロピウムの酸化状態決定
キーワード:ユウロピウム、X線吸収端微細構造、酸化状態
希土類元素(REE)の一つであるユウロピウム(Eu)は、宇宙地球化学試料が生成する物理化学的条件下でEu(II)あるいはEu(III)として存在するため、REEの中でも重要な元素である (Henderson, 1983; Taylor and McLennan, 1995)。地球ではEu(II)はマグマや熱水中の長石(特にCa長石)に選択的に取り込まれ、そのREEパターンには正のEu異常が見られる。その結果、他の鉱物やCa長石を含まない岩石全体のREEパターンには、しばしば負のEu異常が見られる (Taylor and McLennan, 1995)。一般に宇宙地球化学試料中のEu濃度は低く、Eu(II)/ Eu(III)比を実験的に求めることは困難であった。本研究では、高感度な蛍光X線分析を用いたXANES法を使ってEu(II)/ Eu(III)比を求め、REEパターンから推定されるEu(II)/ Eu(III)比と比較することで、酸化還元状態の指標となるEuの宇宙地球化学的挙動を解析することを目指した。
試料として産総研・地質調査総合センターの地球化学(岩石)標準試料JF-1、JF-2(カリ長石)及びJF-1の原岩である大平長石 (Imai et al., 1995; Janovszky et al., 2021; Tanaka et al., 2018)、合成された隕石試料 (Ingrao et al., 2019)を用いた。特に長石中のEu濃度は1 ppm以下と低い一方 (Ando et al., 1989; Imai et al., 1995)、蛍光XAFS分析の際にEu蛍光X線(Lα線)は高濃度のMn Kα線に50 eV以内に近接し、深刻な干渉を受ける。SDD検出器のエネルギー分解能は約130 eVであるため、Eu Lα線の分離は不可能である。そこで本研究では、Bragg型分光器を用いた高エネルギー分解能な蛍光検出によるXANES分析(HERFD-XANES: High Energy Resolution Fluorescence Detected XANES)を行った。
Bragg型分光器によるEu Lα線のMn Kα線からの分離とその高エネルギー分解能分析により、蛍光X線の最大強度部分のみを蛍光X線の信号とすることでXANESのピークがよりシャープになり、微量なEu(II)の検出が可能となった。得られた結果から、今回測定した長石中のEu(II)/Eu(III)比は2%以下となり、REEパターンから予想されるEu(II)/Eu(III)比より著しく低い値となることがわかった。これは、一度生成したEu(II)を濃縮した固相(斜長石など)が溶解(あるいは溶融)し、より酸化的環境下でEu(III)となり、そのEu(III)を取り込んだメルトあるいは流体からカリ長石が生成したためと考えられる。一方で、隕石試料中のoldhamite (CaS)中Eu(II)/Eu(III)は43%以下であり、これはREEパターンから予想されるEu(II)/Eu(III)比とほぼ同じだとわかった。合成された隕石試料は過去に熱変成を受けていないことからこのような結果となったと考えられる。つまり、REEパターンに現れるEu異常と、XANESから得られるEu(II)/Eu(III)比を組み合わせることで、その試料が過去に熱変成を受けたかどうかの指標となることが明らかにされた。今後は、特にREEパターンから得られるEu異常が見られる実際の隕石へこの手法を適用し、Eu(II)/Eu(III)比を決定することで、新たな宇宙地球化学的知見が得られる可能性がある。
試料として産総研・地質調査総合センターの地球化学(岩石)標準試料JF-1、JF-2(カリ長石)及びJF-1の原岩である大平長石 (Imai et al., 1995; Janovszky et al., 2021; Tanaka et al., 2018)、合成された隕石試料 (Ingrao et al., 2019)を用いた。特に長石中のEu濃度は1 ppm以下と低い一方 (Ando et al., 1989; Imai et al., 1995)、蛍光XAFS分析の際にEu蛍光X線(Lα線)は高濃度のMn Kα線に50 eV以内に近接し、深刻な干渉を受ける。SDD検出器のエネルギー分解能は約130 eVであるため、Eu Lα線の分離は不可能である。そこで本研究では、Bragg型分光器を用いた高エネルギー分解能な蛍光検出によるXANES分析(HERFD-XANES: High Energy Resolution Fluorescence Detected XANES)を行った。
Bragg型分光器によるEu Lα線のMn Kα線からの分離とその高エネルギー分解能分析により、蛍光X線の最大強度部分のみを蛍光X線の信号とすることでXANESのピークがよりシャープになり、微量なEu(II)の検出が可能となった。得られた結果から、今回測定した長石中のEu(II)/Eu(III)比は2%以下となり、REEパターンから予想されるEu(II)/Eu(III)比より著しく低い値となることがわかった。これは、一度生成したEu(II)を濃縮した固相(斜長石など)が溶解(あるいは溶融)し、より酸化的環境下でEu(III)となり、そのEu(III)を取り込んだメルトあるいは流体からカリ長石が生成したためと考えられる。一方で、隕石試料中のoldhamite (CaS)中Eu(II)/Eu(III)は43%以下であり、これはREEパターンから予想されるEu(II)/Eu(III)比とほぼ同じだとわかった。合成された隕石試料は過去に熱変成を受けていないことからこのような結果となったと考えられる。つまり、REEパターンに現れるEu異常と、XANESから得られるEu(II)/Eu(III)比を組み合わせることで、その試料が過去に熱変成を受けたかどうかの指標となることが明らかにされた。今後は、特にREEパターンから得られるEu異常が見られる実際の隕石へこの手法を適用し、Eu(II)/Eu(III)比を決定することで、新たな宇宙地球化学的知見が得られる可能性がある。