日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT44] 地球化学の最前線

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (37) (Ch.37)

コンビーナ:羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、コンビーナ:小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、コンビーナ:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、コンビーナ:横山 哲也(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

11:00 〜 13:00

[MTT44-P04] 地球外物質の精密Cr同位体測定法の開発

*横山 哲也1、住谷 格生1、大熊 悠介1西川 慶次1 (1.東京工業大学理学院地球惑星科学系)

キーワード:クロム同位体、地球外物質、Mn-Cr年代測定法、54Cr同位体異常

近年、Crの精密同位体分析を利用した宇宙化学的研究が目覚ましい進歩をとげている。特に、隕石に見られる核合成起源の54Cr同位体異常(ε54Cr)は、初期太陽系における惑星物質の起源や形成位置に関する示唆を与える重要なトレーサーであり、活発な研究が行われている[1]。また、半減期370万年の短寿命核種53Mnおよびその娘核種53Crを用いる53Mn-53Cr年代測定法は、太陽系形成直後から3000万年程度の歴史を知るために効果的な方法であり、様々な地球外物質の年代測定に利用されている[2]。我々は、隕石を対象とした核合成起源54Cr同位体異常ならびに53Mn-53Cr年代の測定を簡便かつ高精度で行うため、従来の分析法を見直し、新たな手法を立ち上げた。まず、イオン交換クロマトグラフィーによる元素分離法を改良し、従来と比べ少ない分離ステップでCrを高回収率・高純度で分離する方法を開発した。また、四重極型ICP-MSを用いて、53Mn-53Crアイソクロンの横軸である55Mn/52Cr比を簡便に測定する方法を立ち上げた。更にTIMSによる同位体分析では、測定中に発生する二次的な同位体分別を抑制する方法を開発し、精度・確度の高いCr同位体分析を実現した。開発した手法を炭素質コンドライト(Murchison, Allende, Kainsaz)、普通コンドライト(Forest City, Saratov, Tuxtuac)、火星隕石(Tissint)、および地球試料(JP-1)に適用した。これら試料のε54Cr値は、いずれも先行研究[3]と調和的であった。また、6つのコンドライトによる53Mn-53Crアイソクロンからは、4564.5 ± 1.9 Maという年代が得られた。このことは、太陽系開始後の約3百万年以内にMn-Crの分別が生じ、その結果として各コンドライト全岩が異なるMn/Cr比を獲得したことを示唆している。しかし、コンドライトは起源の異なる様々な構成要素(CAI、コンドリュール、メタル、マトリクスなど)の集合体であり、厳密にはそれぞれが異なる年代や初生53Cr/52Cr比を持っている。そのため、得られた53Mn-53Crアイソクロンは混合線であり、年代としての意味を持たない可能性もある[3]。今後更に初期太陽系の精密Mn-Cr年代測定を行うためには、より多くの隕石試料、特に構成要素ごとのアイソクロンを正確に求める必要がある。

References
[1] Kleine T. et al. (2020) Space Sci. Rev., 216, 55. [2] Trinquier et al. (2008) GCA, 72, 5146. [3] Zhu K. et al. (2021) GCA, 301, 158.