16:15 〜 16:30
[MTT45-04] インフラサウンドの複数地域でのアレイ観測に基づく音波推定
★招待講演
キーワード:MEMS、到来方向、音速、最小二乗誤差、トンガ海底火山
インフラサウンドは災害を引き起こすような大きな自然現象に伴い,しばしば発生することが知られている.そこで災害の早期検出を目的に,自然環境モニタリングのひとつの手段として,インフラサウンドの多点観測に向けた研究を行っている.多くの地点への配備を可能とするため,小型で安価に実現ができるよう,MEMS 気圧センサーを用いた観測装置を開発を行い,その有効性評価を目的に鹿児島県,東京都,宮城県の3地域において,それぞれ5地点,4地点,5地点において継続的な観測を続けている.
2022年1月15日のトンガ海底火山の噴火に伴い発生したインフラサウンドは,これら全ての観測点において観測された.同じ音源に起因するインフラサウンドが,全てのアレイにおいて観測されたのは,始めてである.これらの信号を用いて,音波の到来方向と音速の推定を行った.それぞれの地域において,全ての2地点間の組み合わせにおける到来時間差を相互相関関数の最大値を与える時間差に基づき求め,平面波の仮定からのずれを誤差関数として最小二乗誤差規範の下で音速と到来方向を同時に推定した.観測地点が4地点以上あれば組み合わせが6つ以上となるため,求めるべき変数よりも数が多くなり,解を得ることができる.観測地点の高さ情報は無視し,平面上で求めている.したがって,求めるべき変数は平面上での方位と速度の2変数である.ただし,定式化の都合により,方位は正弦と余弦の2つの成分に分解してそれぞれで変数を割り当て,三角関数の公式を制約条件として加えることで解を導出した.相互相関関数は,1分ずつ開始時刻が異なる20分の時間フレームで切り出し,ハミング窓で重み付けをした上で計算した.日本時間で1月15日の20時過ぎ頃から22時過ぎにかけて,到来方向の推定結果が安定し,誤差関数も小さい傾向が見られた.推定された速度は,観測地域に関係なく,いずれも 300 m/s 程度であった.到来方向は,宮城県では方位角にして135°から140°程度となり,国土地理院の測量計算サイトを利用して緯度,経度情報から求めた宮城県から見たトンガの方位角と概ね一致した.一方,鹿児島県での観測データによる推定結果は132°から135°程度となり,本来の方位角と概ね対応するものの南寄りの傾向が見られた.推定される到来方向は常に一定ではなく,音波の到来当初はそれぞれの地域と音源との位置関係に概ね対応する異なった方向が推定されていたが,時間が経過するにつれ徐々に全地域とも同じ方向へと変化する傾向が見られた.時間的に大きく重複する時間窓を用いて解析しているのが要因のひとつと考えられるが,他の要因についても検討が必要である.
東京都に設置している4つの観測装置は,いずれも BOSCH 社製 BME280 を 8 つ搭載した MBL1000-8 である.一方,鹿児島県における観測では,MBL1000-8 が3台と Infineon Technologies 社製 DPS310 を使用した装置が2台用いられている.また,宮城県では,いずれも DPS310 を用いた装置が使用されている.サンプリング周波数も,4 Hz,32 Hz,40 Hz が混在している.このような異種センサーで,かつ,観測条件が異なっていても,補間処理を行い多数の地点の観測データを使用することにより,音波の情報についてある程度安定した推定が可能であることが確認された.前述のように,到来方向については,地域によっては時間とともに少しずつ変化する傾向が見られた.風や気圧場の変化の影響の可能性も考えられるが,詳細については今後の検討課題である.
本研究の一部は,JSPS 科研費 JP19H02396 の助成を受けたものである.
2022年1月15日のトンガ海底火山の噴火に伴い発生したインフラサウンドは,これら全ての観測点において観測された.同じ音源に起因するインフラサウンドが,全てのアレイにおいて観測されたのは,始めてである.これらの信号を用いて,音波の到来方向と音速の推定を行った.それぞれの地域において,全ての2地点間の組み合わせにおける到来時間差を相互相関関数の最大値を与える時間差に基づき求め,平面波の仮定からのずれを誤差関数として最小二乗誤差規範の下で音速と到来方向を同時に推定した.観測地点が4地点以上あれば組み合わせが6つ以上となるため,求めるべき変数よりも数が多くなり,解を得ることができる.観測地点の高さ情報は無視し,平面上で求めている.したがって,求めるべき変数は平面上での方位と速度の2変数である.ただし,定式化の都合により,方位は正弦と余弦の2つの成分に分解してそれぞれで変数を割り当て,三角関数の公式を制約条件として加えることで解を導出した.相互相関関数は,1分ずつ開始時刻が異なる20分の時間フレームで切り出し,ハミング窓で重み付けをした上で計算した.日本時間で1月15日の20時過ぎ頃から22時過ぎにかけて,到来方向の推定結果が安定し,誤差関数も小さい傾向が見られた.推定された速度は,観測地域に関係なく,いずれも 300 m/s 程度であった.到来方向は,宮城県では方位角にして135°から140°程度となり,国土地理院の測量計算サイトを利用して緯度,経度情報から求めた宮城県から見たトンガの方位角と概ね一致した.一方,鹿児島県での観測データによる推定結果は132°から135°程度となり,本来の方位角と概ね対応するものの南寄りの傾向が見られた.推定される到来方向は常に一定ではなく,音波の到来当初はそれぞれの地域と音源との位置関係に概ね対応する異なった方向が推定されていたが,時間が経過するにつれ徐々に全地域とも同じ方向へと変化する傾向が見られた.時間的に大きく重複する時間窓を用いて解析しているのが要因のひとつと考えられるが,他の要因についても検討が必要である.
東京都に設置している4つの観測装置は,いずれも BOSCH 社製 BME280 を 8 つ搭載した MBL1000-8 である.一方,鹿児島県における観測では,MBL1000-8 が3台と Infineon Technologies 社製 DPS310 を使用した装置が2台用いられている.また,宮城県では,いずれも DPS310 を用いた装置が使用されている.サンプリング周波数も,4 Hz,32 Hz,40 Hz が混在している.このような異種センサーで,かつ,観測条件が異なっていても,補間処理を行い多数の地点の観測データを使用することにより,音波の情報についてある程度安定した推定が可能であることが確認された.前述のように,到来方向については,地域によっては時間とともに少しずつ変化する傾向が見られた.風や気圧場の変化の影響の可能性も考えられるが,詳細については今後の検討課題である.
本研究の一部は,JSPS 科研費 JP19H02396 の助成を受けたものである.