日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT46] Introducing metaverse to agriculture. Are we ready?

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:二宮 正士(国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科)、コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、座長:成瀬 延康(滋賀医科大学 医学部医学科)

11:30 〜 11:45

[MTT46-04] 拡張現実感技術による園芸農作業支援システムに関する研究

*石井 冬馬1佐々木 佑介1、濱田 健夫2、越塚 登2 (1.東京大学大学院学際情報学府、2.東京大学大学院情報学環)

キーワード:園芸農業、拡張現実感、情報可視化、暗黙知、ユーザインタフェース

近年,農業従事者の減少や高齢化を背景に,ICTを活用したスマート農業が推進されている.新規就農者にとっての障壁の一つとして,熟達した農業従事者の行っている栽培方法の多くが長年の経験で体得した暗黙知に基づいており,農業初心者が理解できるよう明確に示されていない点が挙げられる.そこで,本研究では温室園芸農業を取り上げ,中でも比較的IT化が進んでいる分野として,主にナスに着目した.不要な枝葉を切除する整枝・摘葉作業は毎週行うもので,収量や品質に大きな影響を与えるにもかかわらず,切除する箇所や量などについて新規就農者が参考にできる情報が不足している.また農業従事者一般にとって,長時間を要する整枝・摘葉作業は大きな負担となっている.そして作物の生育状態は個体ごとに異なるため,整枝・摘葉の参考となる情報は作業現場で直感的に確認できることが望ましい.
そこで本研究では,センサによって得られた環境データ等を実物体に紐づけて重畳表示するAR(Augmented Reality)技術を用いて,整枝・摘葉作業を支援する手法を提案した.この手法では,熟練農業従事者の暗黙知をいかに形式知として可視化するかが鍵である.本目的は二つの項目に分けられる.第一に,暗黙知を数理的に形式知化することである.現状,栽培マニュアルがほぼ存在しないため,AR技術で支援できる暗黙知を抽出する.第二に,ARシステムのUI(User Interface)を提案することである.提案にあたっては,情報を自動で提示するARシステムで最終的に実装できるよう,できるだけ幾何的にシンプルなUIを提案した.
本研究は高知県立農業担い手育成センターの指導者や研修生の協力を得て行った.農業従事者からのヒアリング等を踏まえ課題分析を行い,また更なる課題抽出のため,VR(Virtual Reality)で作成したプロトタイプを用いて予備実験を行った.その結果も考慮し,本研究では以下のような支援手法を提案した.
本研究では,農業従事者一般,新規就農者,短期雇用された労働者をシステムの利用者として想定する.提案するアプリケーションでは,圃場内情報や,暗黙知を形式知化したものをARグラスを通して実際の圃場に重畳表示する.具体的に重畳した情報は,葉量の大きい株を示すブロック型の仮想オブジェクト,病害虫のある葉を示すオブジェクト,畝単位の葉面積の数値(葉面積指数),切るべき箇所をピンポイントに示すマーカー,熟練者の作業を再現する,または経営者の望む作物の姿や伝達事項を表示する3D教材の役割を果たす3Dモデルである.
本手法の有効性を検証するために,第一に,ARグラスを用いたパイロットシステムを開発し,農業従事者に対しアンケートによるユーザビリティ評価ならびに半構造化インタビューによる生産現場のニーズ調査との整合性評価を実施した.
検証の結果,具体的な暗黙知が2点判明した.暗黙知は,生育・整枝による葉量の増減幅や,季節ごとの葉量の調節にあることが判明した.また,整枝・摘葉作業への技術の有効性や課題点が明らかになった.ユーザビリティ評価の結果はBangorらの評価基準に従えば許容範囲外であったが,UIに関しては比較的良好な結果が得られた.
本手法が,整枝・摘葉作業の速度・精度の向上や,作業の計画性向上を支援すること,データに基づく知識を豊かにすること,新規就農者の技能上達を促進すること,被雇用者と経営者の間で作業目標を数値の形で共有できるようにすることなどに活用されることが期待される.