日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ47] 海底マンガン鉱床の生成環境と探査・開発

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (30) (Ch.30)

コンビーナ:臼井 朗(高知大学海洋コア総合研究センター)、コンビーナ:鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:伊藤 孝(茨城大学教育学部)、座長:伊藤 孝(茨城大学教育学部)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、臼井 朗(高知大学海洋コア総合研究センター)

11:00 〜 13:00

[MZZ47-P09] 南太平洋ペンリン海盆で採取されたマンガンノジュールの古地磁気・岩石磁気による回転運動と環境の復元

*小田 啓邦1片野田 航1,2村山 雅史2臼井 朗2 (1.産業技術総合研究所地質情報研究部門、2.高知大学)

キーワード:マンガンノジュール、自然残留磁化、磁性鉱物

マンガンノジュール(以下,Mnノジュール)は,主成分であるMn,FeのほかにCu,Ni,Co,希土類元素(REE)などの金属元素を含有し,マンガンクラストとともに将来の海底鉱物資源として期待されている.また,成長速度は100 万年に数 mmと非常に遅く,海洋環境の長期的な記録媒体としても重要である.海域によっては海底堆積物の表面に産出するMnノジュールも多い.それらは,堆積物に埋没しない状態で成長し続けるとされているが,その成長過程は十分に解明されておらず,成長中の物理的な移動や回転などの運動の明らかな証拠はこれまでに確認されていない.本研究の主たる目的は,古地磁気分析により,Mnノジュールの成長過程における回転の復元を試みることである.また,岩石磁気分析によって試料に含まれる磁性鉱物と起源を知ることにより,Mnノジュールが成長した環境とその変化を推測し,さらに古地磁気記録の信頼性を確保することを目指した.Mnノジュールに含まれる磁性鉱物が,その成長にともなって地球磁場方位を順次記録すると仮定する.Mnノジュールが成長過程で動かなければ,残留磁化方位は当時の地球磁場方位を示し,地心双極子磁場による偏角および伏角と一致する.逆に,Mnノジュールが回転したとすれば,古地磁気方位は地心双極子磁場から期待される方位と異なる事になり,この食い違いから回転の検出が可能である.
研究に用いた試料は,工業技術院地質調査所(現在の産業技術総合研究所地質調査総合センター)のGH83-3航海において,1983 年に南太平洋のぺンリン海盆で深海粘土堆積物の表面(西経158.5°,南緯12°,水深5248 m)からボックスコアラーによって採取された球状のMnノジュール(縦74 mm,横60 mm,高さ66 mm)である.試料採取直後に試料の頂点(中心)に白マーカーで印をし,マーカーとノジュール中心を含む面で高さ方向に半割して半割面から板状のA試料を採取した.また,半割面反対側試料についてマーカーを含む面でさらに半割し,その面からA試料と直交する板状のB試料を得た.A試料,B試料それぞれについて,高さ方向に5列の短冊状試料を分割し,さらに水平方向(概ね成長線と平行)に5試料(3 mm × 6 mm × 8 mm)あるいは10試料(1.6 mm ×4.8 mm × 9 mm)の小片に分割し,成長に伴う古地磁気・岩石磁気パラメータの変化を測定した.試料の自然残留磁化は,産業技術総合研究所の超伝導岩石磁力計を用いて測定し,段階交流消磁実験により初生残留磁化成分を求めた.また,A試料について,パルス磁化装置と熱消磁装置による三軸IRM熱消磁測定,振動試料型磁力計によるS比・等温残留磁化(IRM)獲得曲線・FORC(First Order Reversal Curve)測定,磁気特性測定装置(MPMS)による低温磁気分析など岩石磁気分析から磁性鉱物の同定と推定を行った.さらに,蛍光X線マッピング装置と走査型分析電子顕微鏡およびEDSにより,元素濃度相対値の画像作成と,試料に含まれる鉱物の観察・同定を行った.
低温磁性分析により,全試料にマグネタイトあるいはチタノマグネタイトが含まれることが示され,多磁区粒子チタノマグネタイトは電子顕微鏡でも確認された.また,試料表層から16 mm(グループ1)までは低温酸化したマグネタイト,16 mmから20 mm(試料最深部)まで(グループ2)は完全に低温酸化されたマグへマイトを含むことがわかった.さらに,IRM獲得実験とFORC測定により,保磁力(Bh)と磁区構造によって磁性鉱物を分類することができた.グループ1はBh~5mTの多磁区粒子(MD),Bh~20mT のvortex粒子(磁性粒子の粒径がMDとSDの間),Bh~35mTの単磁区粒子(SD)のマグネタイト,およびヘマタイトと推定されるBh~500mTの磁性鉱物を含むことがわかった.低温酸化したマグネタイトはBh~100mTの磁性鉱物として認識された.グループ2は vortex粒子と単磁区粒子マグネタイトを含むと推定され,多磁区粒子マグネタイトおよびヘマタイトと推定される高保磁力磁性鉱物はほとんど含まれない.これら磁性鉱物の起源としては,走磁性バクテリア,オーストラリア起源の風成塵,深層流上流堆積物などが考えられる.
古地磁気データは,高保磁力成分(17.5~40mT)は正帯磁であることを示す.岩石磁気の結果から,高保磁力成分は主に磁化の安定な単磁区粒子の磁性鉱物と考えられる.正帯磁である高保磁力成分は, 0.77 Maから現在のブリュン正磁極期の間に磁化したと考えるのが自然であるが,10Be分析により最も古い試料は約8Maであるため,逆帯磁を示す試料が一つも存在しないことは,この高保磁力成分が初生残留磁化では無いことを示唆する.B試料がA試料と接する部分の表面試料の古地磁気伏角は地心双極子で期待される伏角(-23度)と一致する.この試料の示す偏角を-45度補正すると,偏角ゼロとなり,見かけの古地磁気極(VGP)は北極に一致する.この方位を北として,この試料からノジュールの中心に向かう列の試料の偏角を補正すると,試料が示す安定磁化方位は大円にのる.この大円の極は,北東方向斜め45度下向きである.最も古い試料の磁化方位は,北東方向を見て極の周りに反時計回りに約100度回転すると偏角ゼロ,伏角-23度の地心双極子の方位と一致する.すなわち,このノジュールは中心に近い部分から表面に向かって北東方向斜め45度下向きの回転軸のまわりに時計回りに回転をしながら二次的な磁化を順次獲得したモデルを考えることができる.本講演では,回転の原因となりうる要因について考察する.