16:00 〜 16:15
[MZZ48-08] 大阪地域における被圧地下水の透水係数に関する予察的検討-地中熱利用の観点から-
キーワード:地中熱利用、オープンループシステム、透水係数
脱炭素社会の実現が急務とされる社会情勢において,再生可能エネルギーの普及拡大が以前にも増して加速している。再生可能エネルギーの一つである地中熱利用は,熱供給量が季節によらず安定していることから,他のシステムとの組み合わせなどにより今後さらなる利用促進が期待されている。地中熱利用システムの種類は,クローズドループ方式とオープンループ方式に大別される。クローズドループ方式は周辺環境への負荷が比較的小さいことから導入実績は増加傾向にある。一方,地下水を直接くみ上げて熱を利用するオープンループ方式では,揚水に伴う不確定要素が多いことからポテンシャル評価や環境影響評価が難しく,安全率を考慮するために揚水ポンプの仕様が過大となり,結果的にコストが増大してしまう傾向がある。コストを低減して普及促進につなげるためには,設計段階で揚水量を推定する手法を開発し,規格化・基準化を目指す必要がある。井戸からの適正揚水量は,設置する揚水ポンプの能力だけでなく,帯水層の透水係数に大きく依存する。
大阪平野には海成粘土層が水平に厚く堆積し,その間の砂礫層の連続性も良好である。完新統の粘土層(Ma13層)の下位に分布する砂礫層は「第1洪積砂礫層(Dg1)」,最上位更新統の粘土層(Ma12)の下位に分布する砂礫層は「第2洪積砂礫層(Dg2)」で,それぞれ良好な帯水層として豊富な地下水が賦存している。地盤の透水係数を求める手法にはいくつかあるが,なかでも現場透水試験は地下水を直接的に測定する手法のうち最も汎用的な手法の一つである。特に都市域で大規模な地下工事を実施する際は,工事を安全に遂行するとともに周辺環境への影響評価を行うために,現場透水試験が実施されることが多い。そこで本研究では,これまで各機関が実施した既存の調査報告書を収集し,被圧帯水層(Dg1,Dg2)の現場透水試験のデータを整理してその傾向を把握するとともに,粒度試験の結果から透水係数を推定する手法に関する検討を行った。
現場透水試験は定常法と非定常法に大別され,高透水地盤(10-5 m/s以上の地盤)では定常法が適するとされる(進士・松岡,2020)。本研究で収集したデータの多くは非定常法で測定された結果であった。非定常法では水位変化の手法として注水法と回復法がある。注水法・回復法の両方の手法で現場透水試験が実施されている地点では,注水法で推定された透水係数が回復法より 1~2 桁小さい傾向があり,注水に伴う目詰まりの影響が示唆された。同様の傾向は先行研究(例えば立石ほか,2011)でも指摘されている。また,1 本のボーリングで回復法を複数回実施している地点で結果を整理したところ,ほとんどの地点で1オーダー以内のばらつきに収まっていた。
次に,現場透水試験から得られた透水係数を,ほぼ同深度で実施された粒度組成からの推定値と比較した。粒度組成から透水係数を推定する手法はCreagerの推定方法(Creager et al, 1945)を用いた。その結果,Creagerによる透水係数の推定値は,現場透水試験(回復法)から得られた値より大きくなる傾向が認められた。このことは,粒度組成から透水係数を推定する際に,圧密(間隙比)の効果を考慮する必要があることを示唆している。特に被圧帯水層では,原地盤の上載圧の効果が反映されないことが原因で,粒度組成からの透水係数の推定値が実際よりも1桁以上大きく見積もられる可能性があることが示唆された。今後は,現場透水試験そのもののデータのばらつきを低減するために,元の調査報告書の記述等を再度確認するとともに,粒度試験から透水係数を推定するために様々なパラメータの関係性を確認し,最適な推定手法の確立を目指す。
謝辞:この成果は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP19006)の結果得られたものです。ここに記して感謝の意を表します。
大阪平野には海成粘土層が水平に厚く堆積し,その間の砂礫層の連続性も良好である。完新統の粘土層(Ma13層)の下位に分布する砂礫層は「第1洪積砂礫層(Dg1)」,最上位更新統の粘土層(Ma12)の下位に分布する砂礫層は「第2洪積砂礫層(Dg2)」で,それぞれ良好な帯水層として豊富な地下水が賦存している。地盤の透水係数を求める手法にはいくつかあるが,なかでも現場透水試験は地下水を直接的に測定する手法のうち最も汎用的な手法の一つである。特に都市域で大規模な地下工事を実施する際は,工事を安全に遂行するとともに周辺環境への影響評価を行うために,現場透水試験が実施されることが多い。そこで本研究では,これまで各機関が実施した既存の調査報告書を収集し,被圧帯水層(Dg1,Dg2)の現場透水試験のデータを整理してその傾向を把握するとともに,粒度試験の結果から透水係数を推定する手法に関する検討を行った。
現場透水試験は定常法と非定常法に大別され,高透水地盤(10-5 m/s以上の地盤)では定常法が適するとされる(進士・松岡,2020)。本研究で収集したデータの多くは非定常法で測定された結果であった。非定常法では水位変化の手法として注水法と回復法がある。注水法・回復法の両方の手法で現場透水試験が実施されている地点では,注水法で推定された透水係数が回復法より 1~2 桁小さい傾向があり,注水に伴う目詰まりの影響が示唆された。同様の傾向は先行研究(例えば立石ほか,2011)でも指摘されている。また,1 本のボーリングで回復法を複数回実施している地点で結果を整理したところ,ほとんどの地点で1オーダー以内のばらつきに収まっていた。
次に,現場透水試験から得られた透水係数を,ほぼ同深度で実施された粒度組成からの推定値と比較した。粒度組成から透水係数を推定する手法はCreagerの推定方法(Creager et al, 1945)を用いた。その結果,Creagerによる透水係数の推定値は,現場透水試験(回復法)から得られた値より大きくなる傾向が認められた。このことは,粒度組成から透水係数を推定する際に,圧密(間隙比)の効果を考慮する必要があることを示唆している。特に被圧帯水層では,原地盤の上載圧の効果が反映されないことが原因で,粒度組成からの透水係数の推定値が実際よりも1桁以上大きく見積もられる可能性があることが示唆された。今後は,現場透水試験そのもののデータのばらつきを低減するために,元の調査報告書の記述等を再度確認するとともに,粒度試験から透水係数を推定するために様々なパラメータの関係性を確認し,最適な推定手法の確立を目指す。
謝辞:この成果は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP19006)の結果得られたものです。ここに記して感謝の意を表します。