日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

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[M-ZZ48] 再生可能エネルギーと地球科学

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (34) (Ch.34)

コンビーナ:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター)、コンビーナ:野原 大輔(電力中央研究所)、コンビーナ:島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)、コンビーナ:宇野 史睦(日本大学文理学部)、座長:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター)

11:00 〜 13:00

[MZZ48-P01] 佐賀県唐津平野における浅部地下地質構造解析および熱応答試験結果

*石原 武志1吉岡 真弓1、シュレスタ ガウラヴ1、金子 翔平1、冨樫 聡1、内田 洋平1 (1.国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

キーワード:唐津平野、地下地質、地中熱、見かけ熱伝導率

1. はじめに
地中熱利用システムは,地下浅層(100 m程度)を冷暖房や融雪の熱源とする再生可能エネルギー利用である.代表的な利用形態は熱交換器を埋設して地下と熱交換を行うシステムで,日本全国に導入可能である.本システムは高い省エネルギー性能が期待されるものの,高額な導入費用が普及阻害の一因となっている.特に,熱交換器の埋設コストの低減が課題である.
適切なシステム設計(特に必要な熱交換器長さ)のためには,対象とする地層の見かけ熱伝導率(λ値;地層の有効熱伝導率と,地層中を流れる地下水流動による熱移流拡散効果も含めた熱伝導率)の把握が重要である.最も効果的な方法は現地で熱応答試験を行うことであるが,本試験も高コストであるため,より安価かつ簡便にλ値を把握できる方法が望まれる.以上の背景から,(国研)産総研では佐賀県唐津平野を対象に,地質・熱物性調査を進めており,本発表にて経過報告を行う.
2. 唐津平野の浅部地下地質構造
 唐津平野は,玄界灘に注ぐ松浦川と玉島川の河口部に形成された海岸平野であり,東を背振山地,西を上場台地,南を杵島丘陵に限られる.松浦川と玉島川の間には,景勝地である虹の松原の砂丘が弧状に分布し,背後には後背湿地が広がる.唐津市の市街地は松浦川左岸の狭い平地部に形成されている.
唐津平野中央部の佐賀県立唐津東中学・高等学校にてオールコアを採取した(33.4360N、129.9999E、+2.40m、深度50m).また,調査地において約2100本のボーリング柱状図資料を収集し,浅部地下地質構造を検討した.唐津平野の基盤は白亜紀花崗岩類(花崗岩または花崗閃緑岩)である.河川沿いでは深度20~25m付近に基盤が出現し,基盤上面の凹部(谷地形)が認められる.一方,虹の松原や唐津市街地の基盤上面深度は5~15m付近に分布する.これらの基盤を,礫・砂・泥(シルト・粘土)が埋積している。玉島川近傍の唐津市立浜崎小学校の地質コア試料より,深度9.6mの砂泥層から約7900年前の14C年代値が得られたことから,この埋積物は沖積層と考えられる.
3. 唐津平野における熱応答試験結果
3-1.温水循環方式熱応答試験結果
唐津東中学・高等学校のコア掘削孔を100mまで掘進して熱交換器(ダブルUチューブ)を埋設し,温水循環方式熱応答試験を実施した.推定されたλ値は2.32W/(m・K)であった.また,採取したコア試料の沖積層部分についても,熱物性計(KD2Pro,Decagon社製)を用いて概ね深度1m毎の有効熱伝導率を測定した.コアの地層は,深度1.5~13.5mまで砂層,13.5~24mが砂泥層(ここまで沖積層)、以深は花崗岩類である.有効熱伝導率は,砂層が1.5~2 W/(m・K)程度,砂泥層が1~1.5 W/(m・K)程度であった.
3-2. ケーブル方式熱応答試験結果
唐津平野東部の佐賀県立虹の松原学園および平野西部の唐津市大成公民館にて,深度50mの地質調査孔(ノンコア)を掘削し,ケーブル方式熱応答試験(石原ほか,2020)を実施し,深度1mごとのλ値を推定した.虹の松原学園の地質は,深度0.2~12mが礫混じり砂層,12~50mが花崗岩類である.大成公民館の地質は,深度0.5~20.5mが砂層~砂泥層,以深が花崗岩類である.両地点のケーブル方式熱応答試験から推定されたλ値(深度別λ値の平均値)は,虹の松原学園で1.97 W/(m・K),大成公民館で2.91 W/(m・K)であった.
両地点の地層ごとにλ値を見ると,砂層~砂泥層では1.2~2 W/(m・K)程度の値が多い.花崗岩類のλ値は深度方向に大きくなる傾向が認められ,1.2~14.8 W/(m・K)と非常に幅広い値が得られた.特に大成公民館の深度42~50mの花崗岩類のλ値が5~14.8 W/(m・K)と非常に高く,地下水流れの可能性が示唆される.一方,花崗岩の上部は風化が進みマサ(砂状)化している傾向にある.このような区間のλ値は3 W/(m・K)を下回ることが多かった.
今後,唐津東中学・高校コアの花崗岩類部分の熱伝導率や鉱物組成等を分析し,λ値との比較検討を行う予定である.

謝辞:本研究は,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「再生可能エネルギー熱利用技術開発」の一環で実施中のものである.また,佐賀県新エネルギー産業課および唐津市には,浜崎小学校のコア試料の観察と放射性炭素年代測定、および2施設におけるケーブル方式熱応答試験実施の機会をご提供頂いた.記して謝意を表します.
文献:石原ほか 2020. 日本地球惑星科学連合2020年大会.HTT18-04.