11:00 〜 13:00
[MZZ48-P02] 目詰まり物質の分析による地中熱利用システムの還元井における目詰まり要因の推定
キーワード:目詰まり物質、還元井、地中熱利用システム
オープンループ方式の地中熱利用システムでは,還元井において目詰まりが発生し,それにより地下水の還元に支障を来すことがある.揚水井と還元井のスクリーンにおけるスリット幅が同じであれば,地下水中の浮遊物質が揚水井からシステム内に流入し還元井で目詰まりを生じるためには,スリット間を充填するまで浮遊物質が成長する必要がある.そこで,逆洗運転により目詰まり物質を回収して分析を行うことにより,目詰まり物質の特徴を明らかにし,目詰まり要因を推定することを本研究の目的とする.
本研究の対象地は,三重県四日市市である.ここでは砂層を帯水層とし,地下水中の鉄含有量が0.58 mg/Lである.現在,循環井Y-2とY-3間を累積運転48~72時間毎に配管内の流動方向を変え,揚水井と還元井を入れ換えて運転するとともに逆洗運転を行っている.
本研究では,目詰まり物質の特徴を明らかにするため,逆洗水,浮遊物質の分析を行う.分析は,逆洗水の SS,浮遊物質のSEM観察,SEM-EDX分析である.
季節による目詰まり物質の変化を分析するため,中間期,酷暑期,寒期に逆洗水の採水を行った.2021年6月1日(中間期)の採水前は,2021年5月11日までにY-2からY-3方向で累積約24時間運転して以来稼働しておらず,当日はY-3にて逆洗運転を行った.8月27日(酷暑期)は,前日にY-2からY-3方向で累積約12時間運転しており,当日はY-3にて逆洗運転を行った.11月25日(寒期)は,前日までY-3からY-2方向で累積24時間運転しており,当日はY-2にて逆洗運転を行った.配管内の水を除去するため逆洗開始6秒間は採水せず,その後すぐに10 Lを2~3回,逆洗開始20分後に10 Lを1~2回採水した.逆洗開始直後は還元井の孔壁やその近傍に付着,浮遊する物質が,それ以降は時間の経過と共により帯水層内部の物質が回収され,20分後には自然状態で帯水層中に含まれる物質が採取されると考えられる.
同一方向に累積24時間運転した中間期と寒期では逆洗開始6秒後のSSは大きく,約1分後には急激に小さくなり,20分後の値とほぼ同じになった.同一方向に累積12時間運転した酷暑期では逆洗開始6秒後のSSは小さい.なお,累積運転時間が24時間の場合であっても,過去に目詰まりが起こった時のSSより遙かに小さい.
SEM観察により,逆洗水中には,ねじれを持つ物質,粒状物質,楕円型物質,繊維状物質,不定形物質の5種類があり,ねじれを持つ物質,粒状物質,楕円型物質は単体,集合体の両方が認められる.
SEM-EDX分析により,ねじれを持つ物質は主にO,Feを,加えてSi,Ca,Cu,Cr,Alをわずかに含む傾向にある.粒状物質は主にO,Feを,加えてSi,Ca,Cuを多くの場合で含む.楕円型物質と繊維状物質は主にOを,加えてSi,Alをわずかに含む.不定形物質は主にO,Siを,加えてAl, Mgを多くの場合で含む.
ねじれを持つ物質はその形状から鉄酸化細菌の一種であるGallionella ferruginea(小島ほか,1995)と考えられる.また,ねじれを持つ物質のSEM-EDX分析結果はG. ferrugineaのスペクトル(Suzuki et al., 2011)に極めて類似する点も上の考えを支持する.
粒状物質はG. ferrugineaと形態が異なるものの,両者のSEM-EDX分析結果は類似している.よって,粒状物質は他の鉄酸化細菌である可能性が高く,粒状の鉄酸化細菌であるSiderococcus(小島ほか,1995)であると考えられる. Siderococcusは地下水中に出現し,細胞は小球形で直径0.2~0.5 μmであり増殖によって細胞が鎖状あるいは網状に連なる(小島ほか, 1995)ことから,粒状物質の特徴と調和的である.
ねじれを持つ物質や粒状物質は逆洗開始6秒後には大きい集合体として認められ,成長する特徴が見られることから,目詰まりに寄与すると考えられる.楕円型物質と繊維状物質は珪藻,不定形物質は鉱物であると推測される.これらの物質は逆洗開始直後ではほとんど確認できないことや,自然界に多く分布することから,帯水層中から出てきた物質である.また,これらの物質は小さく,成長する特徴も見出されなかったことから,目詰まりに直接は寄与しないと考えられる.一方で,鉄酸化細菌の生成物の中には粘着性のものがあり(小島他, 1995),実際にSEM観察した中にも,ねじれを持つ物質や粒状物質に不定形物質が付着しているものが確認できた.このことから,楕円型物質,繊維状物質,不定形物質は,鉄酸化細菌に付着することで,大きな集合体の形成を助長していると考えられる.
本研究では,目詰まりが生じる前に逆洗を行っているため,逆洗中に含まれる物質の大きさはスリット幅0.5 mmには至っていないが,一方向で井水を循環させる時間を増加させるほど,鉄酸化細菌の成長,珪藻や鉱物の付着が進み,後に大きさが0.5 mmに至ると考えられる.
謝辞:この成果は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP19006)の結果得られたものです.ここに記して感謝の意を表します.
小島ほか(1995)環境微生物図鑑,講談社,578pp.
Suzuki et al. (2011) Applied and Environmental Microbiology, 77, 2877-2881.
本研究の対象地は,三重県四日市市である.ここでは砂層を帯水層とし,地下水中の鉄含有量が0.58 mg/Lである.現在,循環井Y-2とY-3間を累積運転48~72時間毎に配管内の流動方向を変え,揚水井と還元井を入れ換えて運転するとともに逆洗運転を行っている.
本研究では,目詰まり物質の特徴を明らかにするため,逆洗水,浮遊物質の分析を行う.分析は,逆洗水の SS,浮遊物質のSEM観察,SEM-EDX分析である.
季節による目詰まり物質の変化を分析するため,中間期,酷暑期,寒期に逆洗水の採水を行った.2021年6月1日(中間期)の採水前は,2021年5月11日までにY-2からY-3方向で累積約24時間運転して以来稼働しておらず,当日はY-3にて逆洗運転を行った.8月27日(酷暑期)は,前日にY-2からY-3方向で累積約12時間運転しており,当日はY-3にて逆洗運転を行った.11月25日(寒期)は,前日までY-3からY-2方向で累積24時間運転しており,当日はY-2にて逆洗運転を行った.配管内の水を除去するため逆洗開始6秒間は採水せず,その後すぐに10 Lを2~3回,逆洗開始20分後に10 Lを1~2回採水した.逆洗開始直後は還元井の孔壁やその近傍に付着,浮遊する物質が,それ以降は時間の経過と共により帯水層内部の物質が回収され,20分後には自然状態で帯水層中に含まれる物質が採取されると考えられる.
同一方向に累積24時間運転した中間期と寒期では逆洗開始6秒後のSSは大きく,約1分後には急激に小さくなり,20分後の値とほぼ同じになった.同一方向に累積12時間運転した酷暑期では逆洗開始6秒後のSSは小さい.なお,累積運転時間が24時間の場合であっても,過去に目詰まりが起こった時のSSより遙かに小さい.
SEM観察により,逆洗水中には,ねじれを持つ物質,粒状物質,楕円型物質,繊維状物質,不定形物質の5種類があり,ねじれを持つ物質,粒状物質,楕円型物質は単体,集合体の両方が認められる.
SEM-EDX分析により,ねじれを持つ物質は主にO,Feを,加えてSi,Ca,Cu,Cr,Alをわずかに含む傾向にある.粒状物質は主にO,Feを,加えてSi,Ca,Cuを多くの場合で含む.楕円型物質と繊維状物質は主にOを,加えてSi,Alをわずかに含む.不定形物質は主にO,Siを,加えてAl, Mgを多くの場合で含む.
ねじれを持つ物質はその形状から鉄酸化細菌の一種であるGallionella ferruginea(小島ほか,1995)と考えられる.また,ねじれを持つ物質のSEM-EDX分析結果はG. ferrugineaのスペクトル(Suzuki et al., 2011)に極めて類似する点も上の考えを支持する.
粒状物質はG. ferrugineaと形態が異なるものの,両者のSEM-EDX分析結果は類似している.よって,粒状物質は他の鉄酸化細菌である可能性が高く,粒状の鉄酸化細菌であるSiderococcus(小島ほか,1995)であると考えられる. Siderococcusは地下水中に出現し,細胞は小球形で直径0.2~0.5 μmであり増殖によって細胞が鎖状あるいは網状に連なる(小島ほか, 1995)ことから,粒状物質の特徴と調和的である.
ねじれを持つ物質や粒状物質は逆洗開始6秒後には大きい集合体として認められ,成長する特徴が見られることから,目詰まりに寄与すると考えられる.楕円型物質と繊維状物質は珪藻,不定形物質は鉱物であると推測される.これらの物質は逆洗開始直後ではほとんど確認できないことや,自然界に多く分布することから,帯水層中から出てきた物質である.また,これらの物質は小さく,成長する特徴も見出されなかったことから,目詰まりに直接は寄与しないと考えられる.一方で,鉄酸化細菌の生成物の中には粘着性のものがあり(小島他, 1995),実際にSEM観察した中にも,ねじれを持つ物質や粒状物質に不定形物質が付着しているものが確認できた.このことから,楕円型物質,繊維状物質,不定形物質は,鉄酸化細菌に付着することで,大きな集合体の形成を助長していると考えられる.
本研究では,目詰まりが生じる前に逆洗を行っているため,逆洗中に含まれる物質の大きさはスリット幅0.5 mmには至っていないが,一方向で井水を循環させる時間を増加させるほど,鉄酸化細菌の成長,珪藻や鉱物の付着が進み,後に大きさが0.5 mmに至ると考えられる.
謝辞:この成果は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP19006)の結果得られたものです.ここに記して感謝の意を表します.
小島ほか(1995)環境微生物図鑑,講談社,578pp.
Suzuki et al. (2011) Applied and Environmental Microbiology, 77, 2877-2881.