日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ48] 再生可能エネルギーと地球科学

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (34) (Ch.34)

コンビーナ:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター)、コンビーナ:野原 大輔(電力中央研究所)、コンビーナ:島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)、コンビーナ:宇野 史睦(日本大学文理学部)、座長:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター)

11:00 〜 13:00

[MZZ48-P03] 温泉熱を利用した寒冷地における亜熱帯果樹チェリモヤの栽培試験と地域連携

*田代 達也1若狭 幸2、林田 大志3 (1.弘前大学理工学部、2.弘前大学地域戦略研究所、3.弘前大学農学生命科学部生物共生教育研究センター)


キーワード:熱帯果樹、温泉熱利用、地域おこし、チェリモヤ

地球内部の熱エネルギーは,地熱発電のみならず,地中熱や温泉熱として利用される.温泉は25 ℃以上の地下水と定義されるが,火山国である我が国においては,その利活用の歴史は古く,適用範囲は広い.たとえば,温泉街では古くから地域住民の生活用に利用され,産業が発達してからは,農業・商業への利用や道路の融雪などに利用されている.しかし,未だに我が国において温泉は,浴用利用が主である.浴用利用では約50℃のお湯が利用されるが,温泉水の温度帯によって,エネルギーロスになったり,他のエネルギーを付加する必要のあるものもある.そのため,温泉水の温度に応じた利活用法の検討が必要である.本研究では,温泉熱を利用した熱帯果樹栽培に着目し,その栽培種としてチェリモヤを選定した.世界三大美果のひとつで,果実は非常に甘くクリーミーである.このチェリモヤは,20 ℃前後の冷涼な気候帯の南アメリカのアンデス高地が原産である.そのため,暑さに弱く,日最高気温が30 ℃を超えると成長が鈍化する.これまでの日本における栽培地の日最高気温は,いずれも夏季は30℃を超えるため,栽培が困難でありコストも必要であることから,量販には至っていない.そのため,チェリモヤは我が国では希少価値の高い果樹の一つである.一方,青森県の夏季の日最高気温の平均値は,28.8 ℃であり,成長が鈍化する30 ℃を超える日が少ない.原産地のアンデス高地の気温は,一年を通して比較的一定であるが,チェリモヤは-2℃まで耐えられる特性もある.青森県内の冬季の気温は-2℃を下回ることが多いが,温泉熱を用いることにより-2 ℃にまで上昇させることは比較的容易であることが推察された.すなわち,夏季の冷涼な気候下で他の地域より高効率に栽培し,冬季のマイナスの気温下で運転コストが不要な温泉熱を用いることで,青森県の地理特性を活かした産業が創生できる可能性がある.そのため,本研究では,温泉熱を利用してチェリモヤを栽培し,その栽培方法の検証と事業化のためのシステム構築およびコストの試算を行なった.

本研究では,2021年5月から栽培を開始し,チェリモヤの栽培方法の検証を行なった.夏季は風通しの良い網状ネットを用いた栽培試験地を設置し,Internet of Things(IoT)による監視システムの構築,自動灌水システムの構築を行なった.また,自動灌水の際の施肥方法の検討や,灌水回数,灌水と土壌水分との関係について観察した.さらに,週1回の手動灌水により,土壌中の空気量の調整や害虫の駆除を行い,成長の関係について観察した.成長速度は,6月に実施した葉芯の剪定箇所からの新梢の長さから求めた.冬季は,-2 ℃まで気温が低下しないように,気温に合わせて徐々に暖房・断熱対策を実施した.第一に,強風と積雪を防ぐための場所を選定し,そこにドーム型ビニルハウスを設置した.第二に,ビニルハウス内に,温泉水を循環させた.熱伝導の高い鉄管パイプを選定した.第三に,ビニルハウスを二重被覆にした上に外側のビニルには気泡緩衝材を貼付け,サーキュレータを設置し,地表面と果樹鉢の間には断熱材を設置した.そして最終的に,チェリモヤの成長速度や成長程度,夏季の気温特性や冬季の暖房・断熱効果などについて検討した.

夏季間の栽培方法の検討では,気温の差異による灌水方法の調整を行なった.本研究では,日最高気温が25 ℃までの日では,1日1回,30 ℃までは,1日2回,30 ℃以上では1日3回の自動灌水を行い,週1回の手動灌水を行なった.手動灌水を実施した日は自動灌水の回数をそれぞれ1回減らした.灌水方法の適性評価は,土壌水分量から行なった.本研究における夏季のチェリモヤの成長速度は,先行研究と比較すると大きい値を示した.一方,冬季に向けての暖房・断熱システムの構築による寒害の忌避対策は成功した.10月に設置したビニルハウス,10月末から実施した温泉水の循環,12月に実施したビニルハウスの断熱対策のそれぞれの対策は,チェリモヤを寒害から守ることができた.本研究期間における最低外気温は-6.2 ℃であったが,その際のビニルハウス内の温度は2.9 ℃であった.特に,12月に実施した断熱対策の後は,外気温との差を約8℃に保っており,ビニルハウス内の最低気温は約5 ℃であった.

本発表では,より詳細な栽培方法や栽培結果,およびシステムの説明を実施し,冬季の暖房・断熱の効果や効率,コストの検討などについて詳述する.