日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ49] 人新世の地球システム論:環境・都市・社会

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、コンビーナ:原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)

11:00 〜 11:15

[MZZ49-02] 衛星リモートセンシングによる都市化の熱環境への影響評価

*才畑 真子1石川 正弘1 (1.横浜国立大学)

現在、世界中で都市の拡大が続いており、特にここ数十年で都市化は急速に進んでいる。しかし、都市面積が拡大しているにも関わらず、都市が拡大するスピードよりも都市人口が増加するスピードの方が速いと言われており、都市の拡大は都市への人口集中に追いついていない。さらに、世界的な人口増加も起きており、これらのことから都市化はさらに加速すると考えられる。都市化は、植生の減少、不浸透面の増加、アルベドの変化などの要因によって、地球表層環境を大きく変化させる。これらの変化によってもたらされるものの一つに都市ヒートアイランドがある。都市化の拡大に伴いヒートアイランドの規模も増加すると考えられ、都市規模の熱環境の評価は重要な課題となる。本研究では衛星リモートセンシングから都市の複雑で不均質な環境を測るために、表面温度に対する都市化の影響を定量化した。
先行研究(Bounoua 2015)では、アメリカの都市における地表環境を気候モデルと土地被覆データを用いて評価していたが、本研究では衛星画像データを用いて評価を行った。
 都市化の熱環境への影響評価には、Sentinel-2の衛星画像データを用いて作成したNDVI(正規化植生指数)とLandsat-8の衛星画像データを用いて作成した表面温度を使用した。2つのデータを空間結合させることで、都市における植生の割合と地表面温度の関係性について調べた。まず、解像度10mのSentinel-2の衛星画像データを用いてNDVI(正規化植生指数)を作成し、1㎞×1㎞のグリッドに集約した。次に、同様に、解像度100mのLandsat-8の衛星画像データを用いて地表面温度を作成し、1㎞×1㎞のグリッドに集約した。その後、作成した2つのグリッドデータを空間結合させ、都市中心部からの距離との関係性を明らかにした。研究対象都市はアメリカの首都ワシントンD.C.であり、各衛星データはワシントンD.C.において夏にあたる6~8月のデータを使用した。
NDVIと表面温度のグリッドデータを対比した結果、植生面積と地表面温度には負の相関があり、植生が多い場所ほど表面温度が低くなる傾向がみられた。この結果から、都市化による植生の減少によって都市部の地表面温度は上昇すると考えられる。また本研究では、(1)完全都市化シナリオ(植生が全く存在せず、不浸透面で100%覆われた状態)、(2)植生のある面積の割合で加重平均したシナリオ、(3)完全植生シナリオ(不浸透面が全く存在せず、植生で100%覆われた状態)を作成した。加重平均したシナリオは植生割合に影響を受け、都市中心部から距離が離れれば離れるほど地表面温度が低くなっていた。完全植生シナリオもほぼ同様な傾向を示しており、中心からの距離が5㎞以内の地点を除いて都市中心部から離れれば離れるほど地表面温度が低くなっていた。一方、完全都市化シナリオでは都市中心部からの距離に関わらず、常に高い値でほぼ一定に保たれていた。これらの結果から、都市環境における植生の有無は地表面温度を調整する上で重要な役割を果たしていることが分かる。また、都市中心部から離れるにつれて地表面温度が下がっていったことから、都市部では中心に向かって熱がたまりやすい環境になっていると考えられる。先行研究では、加重平均したシナリオと完全植生シナリオにおいて、都市中心部と中心部から少し離れた場所での地表面温度の差が大きく、完全都市化シナリオにおいても、先行研究の方が本研究よりも安定して高い値を示していた。傾向こそ同様であるものの、先行研究の方が本研究よりも都市化の影響が顕著に表れていた。この差が生じたことの要因として、評価に使用したデータの違いが考えられる。先行研究で用いられた気候データは解像度が低く、またモデルであるため表面温度の変化が一様でなめらかになる。一方、衛星画像データは解像度が30mと高く、地球表面の状態によって不均質に変化する。より詳細な都市環境を理解するためには、衛星画像データを用いた評価を行うことが重要ではないだろうか。

引用論文
Impact of urbanization on US surface climate (2015)
Lahouari Bounoua, Ping Zhang, Georgy Mostovoy, Kurtis Thome1, Jeffrey Masek1, Marc Imhoff, Marshall Shepherd, Dale Quattrochi, Joseph Santanello, Julie Silva
Environmental Research Letters, Volume 10, Number 8