日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ49] 人新世の地球システム論:環境・都市・社会

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、コンビーナ:原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)

11:15 〜 11:30

[MZZ49-03] 東南極大陸リュツォ・ホルム湾周辺の氷河上湖の分布と季節変化

*板垣 春香1石川 正弘1 (1.横浜国立大学大学院)

キーワード:氷河上湖、リモートセンシング

過去数十年の地球の気温上昇は急激であり、南極大陸氷床の融解が懸念されている。南極圏の外側に位置する南極半島において氷床の融解や巨大棚氷の消失は顕著である一方、相対的に気温の低い東南極大陸における氷床の融解の実体については未解明であった。最近、衛星リモートセンシングにより東南極大陸の縁辺に氷床の融解で生じた氷河上湖が広範に発達していることが明らかにされ(Kingslake et al., 2017; Stokes et al., 2019)、東南極の氷床融解が注目を集めている。しかし、東南極における氷河上湖の分布の季節変化に関する詳細な研究は、一部の棚氷や氷河に限られている(Langley et al., 2016; Moussavi et al., 2020)。 本研究では、日本の南極地域観測隊の昭和基地がある東南極のクイーンモードランドに着目し、白瀬氷河とラングホブデ氷河における氷河上湖の面積の季節変化を明らかにすることを目的とした。
2017年から2020年のランドサット8とセンチネル2の衛星画像を用い、正規化水域指標(NDWI)を適用して、リュツォ・ホルム湾周辺の白瀬氷河、ラングホブデ氷河の氷河上湖を特定した。次に、bedmap2(Fretwell et al., 2013)のデジタル標高モデルを用いて、湖の地理的な分布を評価した。また、ランドサット8の衛星画像を用いて表面温度を算出した。また、昭和基地の気象データから気温と全天日射量を取得し、氷河上湖の季節変化との関係を検討した。
衛星画像の解析の結果、11月から2月にかけて氷河上湖を確認した。氷河上湖は主に氷床の縁辺部で、標高が低く(100m以下)、沿岸線から25kmまでの内陸部に分布していた。数は少ないものの、沿岸線から30kmの内陸部の標高約700mにも氷河上湖は発生していた。また、湖が存在する場所の表面温度は-4.0℃から-3.0℃が8割を占めた。このことは、表面温度が氷点下でも湖が存在しうることを示唆している。また、氷河上湖は11月下旬に形成が始まり、12月下旬から1月初旬に拡大し、1月にピークを迎え、2月下旬に縮小していることが分かった。昭和基地で観測された気温と全天日射量と、ラングホブデ氷河の氷河上湖の季節変化を比較した。その結果、湖の面積は、気温と全天日射量の一方のみが高いときには必ずしも増加せず、両方が高いときに増加する傾向があった。逆に、気温と日射量がともに低い場合には、湖の総面積は小さくなった。つまり、氷河上湖の形成を大きく規制するのは気温と全天日射量であり、今後の東南極における気温上昇が東南極氷床の融解をどの程度促進するのか注視する必要がある。