日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ49] 人新世の地球システム論:環境・都市・社会

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (31) (Ch.31)

コンビーナ:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、コンビーナ:原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

11:00 〜 13:00

[MZZ49-P03] 未来へのリスク移転

*石川 正弘1 (1.横浜国立大学大学院環境情報研究院)

キーワード:人新世、リスク

先進諸国において新自由主義経済が進んだことで、グローバルサウスの労働力の搾取や地球環境の搾取が進んできた。経済のグローバル化による搾取の問題は二つの側面がある。一つは個々のローカルな地域にける労働力や自然環境(生態系・土壌・水)の搾取であり(ローカルの搾取)、もう一つはグローバルな地球環境の搾取である(グローバルな搾取)。
リスク対応の視点から二酸化炭素濃度の増加を考えてみる。リスク対応とは想定されるリスクを管理し、損失を回避もしくは低減させる取り組みであり、リスクの対策を決定する。この対策は一般的には、「リスク回避」、「リスク低減」、「リスク移転」、「リスク保有」の4つに分類される。
リスク保有:特に対策をとらず、その状態を受け入れること。二酸化炭素濃度の増加に対して何も対策を講じない対応である。
リスク回避 :リスクを生じさせる要因そのものを取り除くことであり、この場合、化石燃料の使用による二酸化炭素排出を取り除くことである。理想的には再生可能エネルギーに変更することで、リスクが発生する可能性を取り去ることである。 リスク回避 はリスク保有により大きな損害になる場合に有効な対応である。
リスク低減: 対策を講じることにより、脅威の発生確率を下げることであり、この場合、二酸化炭素排出を持続可能な社会を維持できるレベルに制御することである。
リスク移転 :リスクによる損失の影響を外部へ移転する対応である。保険加入や業務をアウトソースすることがリスク移転の代表例である。二酸化炭素濃度の増加はグローバルな現象なのでアウトソースする場所が地球上にはない。しかし、リスク低減対策が十分でない場合は、化石燃料の使用による二酸化炭素濃度の増加は地球環境の搾取であり、未来の地球環境の搾取ともいえる。未来の地球環境の搾取とは、現在の若者やまだこの世に生まれていない未来の若者たちからの搾取である。現在までの経済活動による二酸化炭素濃度の増加の負の遺産を背負うのは、現在の若者やまだこの世に生まれていない未来の若者たちである。二酸化炭素濃度の増加は未来へリスク移転しているといえるであろう。
未来へリスク移転の結果、地域社会における抗議活動という従来の抗議活動ではなく、グレタの抗議活動のように、特定世代による別世代への抗議活動という新しい対立が生じる。二酸化炭素濃度の増加のような人為的グローバルリスクに適切なリスク低減を対処しない限り世代間の分断は進む。