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[MZZ51-07] ザンビア・カブエ地区における高濃度鉛汚染を示した犬のゲノムワイドなDNAメチル化解析
キーワード:DNAメチル化、鉛
エピジェネティクスは遺伝子発現調節のメカニズムの1つであり、遺伝子変異と同等の影響をもたらすが、可逆的かつ環境要因による影響を受ける点が特徴的である。このうちDNAメチル化は、CpG配列におけるシトシンのメチル化が遺伝子プロモーター領域に起こることで遺伝子発現抑制と関連している。こうしたDNAメチル化の変化は環境中の金属類の暴露によって起こることがヒト、動物ともに報告され、環境物質の暴露による毒性および関連する疾患の表現型への潜在的な関連性を説明し得る点から注目されている。
鉛は環境中の金属のうち毒性が明白であり、神経認知障害や行動障害や、自然流産、早産、低体重など周産期疾患、またIQの低下との関連も報告されている。鉛の摂取ルートとして汚染水、特に廃鉱からの漏出は重要であり、今回我々はザンビアの鉱床地区に生息する生態系に注目し環境における鉛汚染水の影響を検討することとした。ヒトに比べイヌは行動制限が少なく、鉛汚染水への接触機会、暴露量が多く、一部のイヌにおいては実際にヒトにおける鉛関連症状の血中発症濃度(20-30 ug/dl)に達している頻度が高いことが判明している。よって、この顕著な鉛汚染水暴露を利用して、DNAメチル化パターンの網羅探索的な解析法によるDNAメチル化の変化と関連付けることによって、ヒトにおいては困難である鉛汚染水暴露における特異的なDNAメチル化パターンを同定することを目的とした。
ザンビア、カブエ鉱床地域に生息するイヌ(飼育、野生)125頭より血液4mLを採取、血漿と血液細胞分画に分離後、細胞よりDNAを抽出した。血中鉛濃度を誘導結合プラズマ質量分析計によって測定し、高暴露群(上位10頭; >30 ug/dl)および低暴露群(下位10頭; <10 ug/dl)に分類、それぞれ10頭からのDNAを用いて網羅的DNAメチル化解析に供した。
網羅的DNAメチル化解析には当グループが樹立したイヌのゲノムワイドDNAメチル化解析法であるCanine DREAM(Yamazaki et al. 2017 Vet. J)を用いた。抽出したDNAより、CCCGGGを共に認識配列とするDNAメチル化感受性/非感受性制限酵素ペアSmaI、XmaIを用いた連続的処理により切断した。切断末端を平滑化後、シークエンス用アダプターを付加し、目的のサイズ(250-500 bp)の断片を精製、PCR反応により増幅を行い、次世代シークエンス用のライブラリ作製を行った。得られたライブラリをIllumina HiSeq3000を用いたシークエンスを行ったところ、20サンプルすべてにおいて約1000万リード以上のシークエンスが可能であった。またこの得られたデータより、それぞれのサンプルでイヌゲノム上の約10万箇所の定量的DNAメチル化データを得た。
まず,20サンプル全ての症例における相関性を検討したところ,一部のサンプルを除き鉛への高暴露群と低暴露群とで大きく2つのクラスターを形成することが判明した。
次に、高暴露群と低暴露群の間で、DNAメチル化レベルが異なる遺伝子座を解析するために、少なくとも20リード以上(5%の差を解析可能)のデータを持つ70,211CpGサイトについて解析を行ったところ、DNAメチル化レベルの差が>10%、かつt検定においてp<0.05であるようなCpGサイトが827箇所同定され、その多くは高暴露群においてDNAメチル化レベルが高いことが判明した。加えてこれらの部位の近くには,NGF遺伝子など神経発生に重要な遺伝子などが含まれていた。
最後に、これら神経発生に関する遺伝子のDNAメチル化レベルについて同エリアの別のイヌ由来である20個体の血液サンプルを用いた検証を行ったところ,やはり高暴露群における高いDNAメチル化レベルが検出され,これらの部位が鉛による影響を最も受けていることが示唆された。
本結果より、神経毒性を示す鉛中毒のメカニズムにエピジェネティックな変化,特にDNAメチル化の変化が関与していることが示唆された。イヌで認められた本研究の成果は,ヒトやそれ以外の動物でも同様の変化が起こっていることを示唆しており,現在同地区に棲息するクマネズミの解析も行っている。これら結果により、将来的な鉛中毒におけるバイオマーカーの樹立や,エピジェネティクスをターゲットとした鉛中毒治療への応用が期待される。
鉛は環境中の金属のうち毒性が明白であり、神経認知障害や行動障害や、自然流産、早産、低体重など周産期疾患、またIQの低下との関連も報告されている。鉛の摂取ルートとして汚染水、特に廃鉱からの漏出は重要であり、今回我々はザンビアの鉱床地区に生息する生態系に注目し環境における鉛汚染水の影響を検討することとした。ヒトに比べイヌは行動制限が少なく、鉛汚染水への接触機会、暴露量が多く、一部のイヌにおいては実際にヒトにおける鉛関連症状の血中発症濃度(20-30 ug/dl)に達している頻度が高いことが判明している。よって、この顕著な鉛汚染水暴露を利用して、DNAメチル化パターンの網羅探索的な解析法によるDNAメチル化の変化と関連付けることによって、ヒトにおいては困難である鉛汚染水暴露における特異的なDNAメチル化パターンを同定することを目的とした。
ザンビア、カブエ鉱床地域に生息するイヌ(飼育、野生)125頭より血液4mLを採取、血漿と血液細胞分画に分離後、細胞よりDNAを抽出した。血中鉛濃度を誘導結合プラズマ質量分析計によって測定し、高暴露群(上位10頭; >30 ug/dl)および低暴露群(下位10頭; <10 ug/dl)に分類、それぞれ10頭からのDNAを用いて網羅的DNAメチル化解析に供した。
網羅的DNAメチル化解析には当グループが樹立したイヌのゲノムワイドDNAメチル化解析法であるCanine DREAM(Yamazaki et al. 2017 Vet. J)を用いた。抽出したDNAより、CCCGGGを共に認識配列とするDNAメチル化感受性/非感受性制限酵素ペアSmaI、XmaIを用いた連続的処理により切断した。切断末端を平滑化後、シークエンス用アダプターを付加し、目的のサイズ(250-500 bp)の断片を精製、PCR反応により増幅を行い、次世代シークエンス用のライブラリ作製を行った。得られたライブラリをIllumina HiSeq3000を用いたシークエンスを行ったところ、20サンプルすべてにおいて約1000万リード以上のシークエンスが可能であった。またこの得られたデータより、それぞれのサンプルでイヌゲノム上の約10万箇所の定量的DNAメチル化データを得た。
まず,20サンプル全ての症例における相関性を検討したところ,一部のサンプルを除き鉛への高暴露群と低暴露群とで大きく2つのクラスターを形成することが判明した。
次に、高暴露群と低暴露群の間で、DNAメチル化レベルが異なる遺伝子座を解析するために、少なくとも20リード以上(5%の差を解析可能)のデータを持つ70,211CpGサイトについて解析を行ったところ、DNAメチル化レベルの差が>10%、かつt検定においてp<0.05であるようなCpGサイトが827箇所同定され、その多くは高暴露群においてDNAメチル化レベルが高いことが判明した。加えてこれらの部位の近くには,NGF遺伝子など神経発生に重要な遺伝子などが含まれていた。
最後に、これら神経発生に関する遺伝子のDNAメチル化レベルについて同エリアの別のイヌ由来である20個体の血液サンプルを用いた検証を行ったところ,やはり高暴露群における高いDNAメチル化レベルが検出され,これらの部位が鉛による影響を最も受けていることが示唆された。
本結果より、神経毒性を示す鉛中毒のメカニズムにエピジェネティックな変化,特にDNAメチル化の変化が関与していることが示唆された。イヌで認められた本研究の成果は,ヒトやそれ以外の動物でも同様の変化が起こっていることを示唆しており,現在同地区に棲息するクマネズミの解析も行っている。これら結果により、将来的な鉛中毒におけるバイオマーカーの樹立や,エピジェネティクスをターゲットとした鉛中毒治療への応用が期待される。