日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ51] 環境汚染・環境毒性と生物

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中山 翔太(北海道大学大学院獣医学研究院)、コンビーナ:石塚 真由美(北海道大学)、コンビーナ:銅谷 理緒(北海道大学大学院獣医学研究院)、座長:銅谷 理緒(北海道大学大学院獣医学研究院)

11:30 〜 11:45

[MZZ51-10] アオウミガメの汚染物質の影響評価を可能にするリソース開発

*片山 雅史1、福田 智一2、大沼 学1、武田 一貴3、近藤 理美4中山 翔太5,6 (1.国立研究開発法人 国立環境研究所、2.岩手大学、3.北里大学、4.認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー、5.北海道大学、6.ザンビア大学獣医学部)

キーワード:培養細胞、アオウミガメ、環境汚染物質

我々人類を含めた生物は、地球上の陸域、淡水域、海洋に生息し、生物多様性を維持しながら共存している。特に野生動物は、上位捕食者であることが多く、生物多様性におけるキーストーン種である場合が多いため、個体数の減少が生物多様性に与える影響は大きい。生物多様性を脅かす要因として、気候変動、侵略的外来種、汚染などが挙げられているが、いずれも国境を越えて地球規模で深刻化する問題であり、生物学、地球科学などを融合した総合知で取り組むべき課題の一つである。
 我が国では、侵略的外来種対策の一環として、一部の地域で殺鼠剤が使用され大きな成果が挙げられている。一方で、殺鼠剤の非標的種への影響も懸念されており、検討が必要である。野生動物では殺鼠剤の様な汚染物質の影響を評価する上で、個体の使用は難しく、代替法の開発が必要である。そこで本研究では、体細胞に着目した。体細胞は、生体実験が難しい野生動物においても、死亡個体から取得可能である。この様な体細胞は、生体の生理学的応答を模倣する部分が多く、体細胞を有効に利用することで、野生動物の汚染物質の感受性の評価が可能になり、野生動物の汚染物質による影響の予測も視野に入る。
本研究では、汚染物質の影響評価を目的にアオウミガメの培養細胞の取得を試みた。アオウミガメは、IUCN red listで絶滅危惧IB類に分類されている絶滅危惧種である。一方で、アオウミガメの世界的産卵地の一つである小笠原諸島では、外来種であるクマネズミ対策として殺鼠剤が使用されている。また、アオウミガメは近縁種であるアカウミガメと比較して習性的に誤食リスクが高く、誤って殺鼠剤を食べる可能性も考えられており、感受性評価を進めたい種の一つである。
本研究では、アオウミガメの死亡個体由来の組織から、培養細胞の取得を試みた。本研究では、初めに基礎培地の検討を行った。哺乳類の代表的な3種類の基礎培地(DMEM, DMEM/F12, RPMI1640)の比較の結果、RPMI1640で最も活発な細胞増殖が認められた。次に、細胞培養の温度を検討した。本研究では、30℃(加熱式CO2インキュベーターの安定培養温度の下限)、37℃(一般的な哺乳類細胞の培養温度)、33℃(中間温度)の3点で検討を行った。結果、30℃が最も活発に細胞増殖し、細胞生存率も30℃が最も高値を示した。本研究では、アオウミガメ培養細胞の取得に成功し、至適条件を探索した。一方で、培養細胞は、細胞老化という現象により、長期間培養することが困難である。そこで、今後、研究資源としてより有用に利用するために、遺伝子導入による不死化細胞(無限分裂細胞)の樹立を目指していきたいと考えている。さらに樹立した細胞を用いて、遺伝子発現解析、細胞死解析や代謝マーカー解析を通じて汚染物質の感受性の評価につなげたいと考えている。