日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] 口頭発表

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[O-05] 小中学校新教科書から読み解く自然災害教育の課題

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:岩田 真(広島県立大柿高等学校)、コンビーナ:飯田 和也(駒場東邦中学高等学校)、冨樫 民樹(埼玉県立春日部高等学校)、コンビーナ:今野 良祐(筑波大学附属坂戸高等学校)、座長:今野 良祐(筑波大学附属坂戸高等学校)、岩田 真(広島県立大柿高等学校)、冨樫 民樹(埼玉県立春日部高等学校)、宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)、飯田 和也(駒場東邦中学高等学校)

09:25 〜 09:50

[O05-02] 被災地の経験を実社会につなげる社会参画型の社会科学習

★招待講演

*中谷 佳子1 (1.千葉大学教育学部附属小学校)

キーワード:避難所、実社会、自助・共助・公助、小学校社会科、自然災害

新学習指導要領の第4学年において,自然災害を学習する単元が新設された。この単元は小学校全学年の17の内容のうち,「自分たちにできることを考えたり,選択・判断したりできるように配慮する」ことが明記されている6単元のうちの1つである。本校が使用しているA社の教科書では,この6単元には,「つかむ」「調べる」「まとめる」の学習過程に「いかす」が加えられ,自分たちにできることを考え提案する場面が位置付けられている。本単元においては,「避難所シミュレーションゲーム」をすることで,さまざまな立場での判断を経験させることとなっている。しかし,そこに至るまでに被災当時の写真はあるものの,被災者の経験や教訓はない。
 子どもたちが「自然災害」にたいして,自分たちにできることを考えたり,選択・判断したりする場面では,「自助」にとどまらず,社会にはさまざまな属性や考え方を持った人がいることに気づき,その人たちを包摂できる解決策,つまり「共助」を視野に入れた学習過程が必要である。また,その学びを,単なるゲームにとどめず,「実社会」にたいして働きかけ,参画していけるような単元を展開することも不可欠であろう。 そこで,本実践では,「学校での学び」と「実社会」の有機的なつながりの場を作ることを重視し,千葉大学やまちづくりNPO,近隣自治会の人々と協働する学習を構想した。具体的には,子どもたちと地域の人々が共有する課題を「災害時の避難所の運営」とし,相互交流を通した協働の学びの場を多く設定した。
 子どもたちは,自分たちが住む千葉市の防災計画を学ぶ中で,多数の職員が派遣された熊本地震で得た教訓をもとに作成された箇所がいくつもあることを知った。そこで,熊本地震の被災状況や避難所の経験を,熊本県御船町の人々から学ぶ場を設定した。そこで,子どもたちは,避難所の生活が震災関連死の原因になることや避難生活の大変さ,地域の人との協力が不可欠であることなどを学んだ。特に「避難所は,そこで生活するみんなが大変だ。」という子どものつぶやきから,「みんな」とは誰なのか?を考える時間をとった。はじめは,「みんなはみんなだよ。」と言っていた子どもたちも,「だから,赤ちゃんとかお母さんとか…」「お年寄りの人とか,目の見えない人とか…。」と,そこで生活する様々な立場の人が,どのように大変か,について考えていった。一方,避難所の運営は,「市町村の自治体」が担っているため,国立大学の附属小の場合は一時的に滞在する避難場所とはなりえても,長期滞在する避難所とはならないこと,熊本地震の際は,避難場所としての大学に多くの避難者が集まったが,「学びを継続する」ために,一時的に開放した教室や体育館を閉鎖した例があったことを知った。子どもたちは,このような震災時の避難所に関する事実を地域の人々や学生さんと共有する過程で,「千葉大学や附属小学校を避難所にしてほしい」という人々の思いを聞き,「附属小を学びと避難が両立する避難所にしたい」と考えるようになった。そこで,熊本県御船町が作成した「避難所のしおり」を参考にしながら,附属小を学びと避難が両立する避難所にするにはどうしたらいいか,その在り方を多角的に考えながら,「附属小避難のしおり」を作成した。その過程では,地域の人々や学生さんとZoomでつながり,自分たちの考えを提案したり,質問したりしながら,交流を重ねた。そして,完成したしおりを,お世話になった熊本県御船町の人や地域の人々,学生さんや教授,そして千葉大学防災担当課の人に発表した。子どもたちは,自分たちの作ったしおりに満足しながらも,発表会を終えても,なお「外国の人のことをもっと考えなくてはいけなかった」「受付の仕方がはっきりしていなかった」など,考えていかなくてはいけないことを話し合っていた。
本実践を通して子どもたちは,これまで交流経験のなかった地域の人々(大人)を,「課題をともに考えてくれる人」ととらえることができるようになった。また,熊本地震の経験や教訓を学ぶ中で,「もし,自分だったら」と考える力,つまり想像力を大いに働かせた。さらにそれにとどまらず,学んだこといかして「よりよい避難所とは」と考え提案する力,つまり創造力をも涵養した。被災地の教訓的な学びを実社会につなげ,社会に参画する活動で培ったこの「想像力」と「創造力」という2つの力は,自然災害時の実社会でも必要不可欠なものである。しかし,本単元のような地域とともに作る参画型学習には,多くの時間と教員への負担がかかる。地域教材や人脈をプログラム化し,学校も地域もそのプログラムを引き継いでいけるような手立てをとる必要性があるだろう。