日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[O-05] 小中学校新教科書から読み解く自然災害教育の課題

2022年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:岩田 真(広島県立大柿高等学校)、コンビーナ:飯田 和也(駒場東邦中学高等学校)、冨樫 民樹(埼玉県立春日部高等学校)、コンビーナ:今野 良祐(筑波大学附属坂戸高等学校)、座長:冨樫 民樹(埼玉県立春日部高等学校)、宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)、岩田 真(広島県立大柿高等学校)、飯田 和也(駒場東邦中学高等学校)、今野 良祐(筑波大学附属坂戸高等学校)

11:30 〜 11:45

[O05-08] 中学校理科における気象災害および気候変動に関する学習の現状と課題

★招待講演

*吉本 直弘1 (1.大阪教育大学)

キーワード:気象災害、気候変動、教科書分析、中学校理科、防災教育、気候変動教育

中学校理科教科書の分析を通して,気象災害および気候変動に関する学習の現状の把握と課題の考察を行った。中学校学習指導要領(平成29年告示)(以下「現行学習指導要領」という。)の理科では,第2学年「気象とその変化」に「自然の恵みと気象災害」が追加され,その目標として気象災害を天気の変化や日本の気象と関連付けて理解することが明確になった。この学習では,気象災害と気象を時間的・空間的な関係や原因と結果の関係といった科学的な視点で捉え,論理的に関連付けて考察させることが考えられる。気象災害の中で発生頻度が高く,被害の程度も大きい大雨や豪雨による災害は,中学校理科で学習が望まれる重要な自然災害である(松尾・吉本,2021)。
 平成20年(2008年)告示の中学校学習指導要領(以下「前学習指導要領」という。)に基づく理科の教科書(以下「前教科書」という。)では,5社中4社の教科書で,台風,大雨・豪雨,災害事象を関連付けた記載がされていた。一方,梅雨前線,大雨・豪雨,災害事象を関連付けた記載は1社の教科書のみであり,とくに梅雨前線に関する記載の改善が課題であると考察できた。講演では,主に台風や梅雨前線がもたらす大雨・豪雨とそれによる災害について,現行学習指導要領に基づく教科書(以下,現行教科書という)における記載の分析結果を報告する。
 中学校理科第3学年「自然と人間」では,前学習指導要領の「地球温暖化」から現行学習指導要領の「気候変動」へと触れる内容が変更された。これによって地球表層の温暖化だけでなく,雪氷圏や極端気象の変化など気候システムのさまざまな変化を扱うことが期待される。前教科書では,5社すべての教科書で「大気の温暖化」と「大気中の温室効果ガス濃度の増加」について記載されていたが,現行教科書では,1社の教科書で「大気中の温室効果ガス濃度の増加」の記載がなくなった。また,「海洋の温暖化」と「極端な気象の変化」は,前教科書では一部の教科書で記載されていたが,現教科書ではすべての教科書で記載がなかった。気候変動の観測事実の記載項目数が増加し,気候変動を多面的に捉える教科書がある一方,記載項目数が減少し,「大気の温暖化」のみを扱う教科書もあった。中学校理科で気候変動の何をどこまで扱うのかについて議論し,学習目標の明確化が望まれる。

参考文献
松尾亮太朗・吉本直弘(2021):降水を対象にした中学校理科教科書の内容分析 −第2学年「気象とその変化」について−.地学教育,73,55-69.