日本地球惑星科学連合2022年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表O08-P01~P20

2022年5月29日(日) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (Ch.01)

13:45 〜 15:15

[O08-P03] 「大場美佐の日記」の江戸期の「降水率」を推定するー「詳細率」を使った天候復元の試みー

*安藤 琉偉1、*江口 美蘭1、*後堂 莉乃1、*龍造寺 萌心1、*吉田 りあ1、*杉山 夢子1、*西村 元一1、*谷口 智哉1 (1.池田学園池田高等学校)


キーワード:中村平左衛門日記、詳細率、回帰分析、大場美佐の日記

1 概要
過去7年に亘り江戸時代の7つの古文書の天候記録をデータベース化し分析を試みてきた。しかし、結果は天候の記録者の主観が入るため「定性的」であると指摘されてきた。昨年、江戸時代に北九州で書かれた「中村平左衛門日記(1812~1866)」の降水率が、「詳細率」に影響を受けることを検証し、本年度は「大場美佐の日記」を資料として「日記の降水率(雨雪)」と「詳細率」と「気象台の降水量(1875年以降)」を説明変数とした回帰分析により、「気象台観測前の江戸時代の降水率」を復元した。
 ※詳細率:天気記録の総日数のうち「晴れ」「雨」と1語でなく、複数種類の天気が併記されていたり、時間変化、「大雨」などの降水規模の記述がある日数の比率
2 研究の動機
 明治生まれの文豪永井荷風の日記「断腸亭日乗」にヒントを得て、江戸時代の天候を古文書を使って復元している。今年度は彦根藩世田谷領の代官で、大場家第12代の当主の妻の美佐が1860年から1904年まで書き残した「大場美佐の日記」を分析した。
3 研究の目的
(1)過去7年間に分析したのは「関口日記」「二條家内々御番所日次記」「妙法院日次記」「守屋舎人日帳」「弘前藩庁日記」「鶴村日記」「中村平左衛門日記」の7つの古文書で、これらと同様に天候記録をデータベースにする。
(2)米国の医療宣教師ヘボンの横浜の降水の記録をもとに1868年の異常降雨を日記で検証する。
(3)日記の記録の精度を測る「詳細率」と「日記の降水率」と「気象台の降水率 (1875年以降の東京気象台)」で、回帰分析を使って「江戸期の降水率」を復元する。
4 研究の方法
天気は現在の気象庁の分類に近づけて、雪>雨>曇>晴れと判別した。また、「晴」と「曇」が併記されている日は、1日のうち、8.5割以上曇っていれば「曇り」、20.4時間未満であれば「晴れ」と、空間分布を時間分布に換算して判断した。
5 データ処理
取得したデータは45年間で、11,478日だった。「詳細率」以外の「天気の出現率」の集計では、「1年の1/3の欠測のある年」と2月29日も集計から削除した。
6 古文書の精度について
ヘボンが、1863年から1869年の間、横浜の降水量や降水日数などを記録しており、1868年は多雨の傾向が見られたので関口日記と大場美佐の日記を確認すると、同様に大きな変動があることがわかった(図1)。
7 大場美佐の日記の詳細率
先行研究(庄ら、2017)の「詳細率」を使って記録の精度を検討した。大場美佐の日記の詳細率と降水率の相関係数は0.74で、(図2)のように、日記の降水率が詳細さに影響を受けている。
8 単回帰分析
 「大場美佐の日記の降水率」と「詳細率」と1876年に始まった東京気象台の「降水率」を使って、気象台が観測を始める以前の江戸期の降水率を回帰分析で推定した(図3)。
(1)「気象台の降水率」と「詳細率」で単回帰分析をするとY=0.7781x+0.0811という式を得た。
(2)「気象台の降水率」と「日記の降水率」の単回帰分析でY=1.5267x+0.0412という式を得た。日記データから実測値を推定し、東京気象台の観測データの比較をするとかなり良い。
9 重回帰分析
x「日記の明治期の降水率」y「詳細率」z「気象台の降水率」で重回帰分析を使って求めるとz=0.65x+0.56y-0.024059296という式が得られた(図4)。
回帰直線による結果と実際との差をプロットすると、赤の×印の重回帰分析のほうが良い結果が得られる(図5)。そこで重回帰分析で1875年以前の降水率を復元した(図6)。
10 考察とまとめ
(1)ヘボンの横浜の降水量記録の1868年の夏の異常降雨は「大場美佐の日記」「関口日記」においても認められたことから、古文書も優れた時間分解能を持つ資料になりうると考える。
(2)「大場美佐の日記」の詳細率の平均は45.4%で、雨の出現率との相関係数は0.74であった。「日記の降水率」「詳細率」「気象台の降水率」を使って回帰分析をすると、説明変数を2つ使うほうが良い。そこで「1875年以前の気象台の降水率」を求めると、z=0.65x+0.56𝑦−0.024059296という式を得た。
 式より1875年以前の降水率の最高は、1869年の56.5%で、最低は1871年の36.9%となる。日記の降水率の最低が1863年の26.2%で、より定量的なデータになった。
11 今後の予定
まだ分析出来ていない地域の古文書の天候データベースを作り、「詳細率」「日記の降水率」「気象台の降水率」に加えて「閾値」などのデータを使って「江戸期の降水率」の定量的復元を考える。
12 参考文献
庄建治朗・鎌谷かおる・冨永晃宏 (2017)日記天気記録と気象観測データの照合による梅雨期長期変動の検討