日本地球惑星科学連合2022年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表O08-P01~P20

2022年5月29日(日) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (Ch.01)

13:45 〜 15:15

[O08-P05] 白田川は硫黄コロイドによる光の散乱で青白く見える

*冨田 夏津馬1吉田 亮祐1 (1.静岡県立下田高等学校)


キーワード:白田川、伊豆、硫黄、コロイド、水、ジオサイト

伊豆半島の天城山を水源とする白田川は、静岡県東伊豆町を流れている。江戸時代に硫黄が採掘されていた伝承があるので、下田高校自然科学部では、白田川に青白く見える場所があるのは硫黄の粒子による光の散乱が原因だと仮説を立てて、検証のための研究を進めてきた。昨年度(JpGU2021大会)は、白田川各地点のpHを報告した上で、硫黄採掘跡で採取した白色の泥には質量比3割の硫黄が含まれていることを示した。今年度(JpGU2022大会)は、硫黄の粒子が白田川を青白く見せることを証明するため、白田川各地点の硫化物イオンおよび硫酸イオンの濃度を調査し、さらに各地点の青白さを数値化した上で、採取した水に含まれる微量成分を測定して光の散乱を引き起こす成分が硫黄以外に含まれていないことを確かめた。

【方法】現地での採水は、すべて2021年9月11日に実施した。硫化物イオンと硫酸イオンの濃度は、パックテスト硫化物とパックテスト硫酸で調べた。各地点の青白さは、色見本と吸光光度計で数値化した。白田川で採取した水に含まれる各種成分の測定は、鉱泉分析指針に従った試験が可能な専門の分析機関に依頼した。

【結果】現地でのパックテストを使った調査によると、硫黄採掘跡で採取した水に含まれる硫化物イオンは0.6ppm、硫酸イオンは80ppmであったが、硫化物イオンは川を下ると急激に濃度が低下した一方で、硫酸イオンは40ppmを下回ることはなかった。色見本とともに写真を撮影して青白さを数値化すると、白田川各地点の色彩をRGB値で表現できた。BLUEからREDの値(それぞれ0以上255以下)を引き算すると、水が無色透明で岩肌の灰色が見えた硫黄採掘跡0 m地点に比べて、最も青く見えた下流の4600 m地点は大きな値を示していた。持ち帰った水を吸光光度計で分析すると、190 nm以下の短波長の光を、硫黄採掘跡0 m地点の水はわずかに、下流4600 m地点の水はその1.7倍吸収しており、青く見える原因が水自体にあると確認できた。また、外部委託した硫黄採掘跡0 m地点と下流4600 m地点で採取した水の試験成績書によると、銅(Ⅱ)イオンとアルミニウムイオンは定量下限値の0.1 mg/L未満しか含まれておらず、メタけい酸は両地点間で濃度にほぼ差がなかった。

【考察】私たちは白田川が青白く見えるのはなぜかという問いを解決するために研究を進めてきた。先行研究によれば、箱根大涌谷、草津白根山、阿蘇山火口で水が青白く見えるのは、硫黄のコロイド粒子が光を散乱させるためだとされる。白田川でも硫黄の粒子による光の散乱が原因だと私たちが考える根拠の第一は、採掘跡の泥に質量比3割の硫黄が含まれている点である。第二は、硫黄コロイドのもとになる硫化物イオンが白田川の水に含まれていて、その濃度が下がっていく点である。第三は、銅(Ⅱ)イオンのように青く見えたり、水酸化アルミニウムコロイドやメタけい酸コロイドのように光を散乱させたりする他の物質では、白田川各地点の青白さを説明できない点である。第四は、硫化物イオンが酸化されて硫酸イオンができるのに時間がかかるのと同様に、硫化物イオンから硫黄ができてコロイドとして成長するのに時間がかかるため、採掘跡から4600 m地点が最も青白く見えるという点である。以上を総合して、硫黄コロイドが原因だろうと私たちは結論づけた。

【展望】白田川上流での硫黄採掘にともなう水質汚濁は元禄14年(西暦1701年)まで起源をさかのぼることができ、下流住民の生活に与えた影響を多数の古文書が伝えている。明治35年(西暦1902年)以降は硫黄を採掘しておらず、昭和41年(西暦1966年)に白田浄水場が設置され、濁りを沈殿させるための堰堤が各所に整備されたことで、現在の白田川は水質が安定し、東伊豆町の主要な水源になった。下田高校自然科学部が2年間かけて進めた研究は、私たちの郷土に残された『硫黄文書』の解読に代表される従来の歴史・人文学的な研究とは別の視点で、白田川の理解を発展させることができた。国内の硫黄鉱床はすべて火山活動にともなうものとされ、成因によって昇華鉱床、溶流鉱床、沈殿鉱床、鉱染鉱床(および複合的なもの)に分類される。白田川の上流で硫黄が産出するのはどうしてか伊豆半島ジオパーク推進協議会に問い合わせたところ「明確な答えはまだありません」とのことだったので、周辺の地形や地質に着目しながら研究を掘り下げていきたい。白田川では硫黄が谷底で産出しており、私たちの現地調査により付近で凝灰岩が見つかったことから、天城カルデラに関連した沈殿鉱床の可能性が高いと、現時点では考えている。