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[O08-P26] 富士山の斑晶に富む玄武岩質溶岩の液体‐固体遷移:高温溶融実験による制約
キーワード:富士山、玄武岩、液体‐固体遷移
本研究の目的は,玄武岩質溶岩の液体-固体レオロジー遷移が起こる条件を解明することである。富士山は10万年以上前から活動を続ける活火山で,過去2千年間でも40回以上の噴火を繰り返している。富士山の活動史を通して,噴出したマグマのほとんどは玄武岩質溶岩であり,玄武岩質マグマは比較的高温・低粘性のため,火口から噴出後に溶岩流として長距離を流れやすい。このため,溶岩流の流動過程を予測することは火山防災上重要であるが,その信頼性を向上させる上で現在必要とされる制約は,溶岩流が流動を停止する条件である。溶岩流は,地表を流れる間に徐々に冷却し,結晶作用が進むことでやがて完全に固化する。しかし,液体的から固体的へのレオロジー遷移は,溶岩が完全に固化する前におこるため,その条件は十分に制約されていない。そこで本研究では,溶岩の液体-固体遷移が起こる条件の解明を目的とし,富士山の溶岩を試料とした高温溶融・変形実験・観察を行った。
実験の始発物質は,富士川河口の露頭で採取した富士山の溶岩(水神溶岩)を1辺2cmの立方体状に切断したものである。これを底面の頂点4点のみでアルミナ製るつぼに接するように配置し,あらかじめ目的温度まで熱した電気炉中で一定時間維持した。実験温度は1150~1180℃,維持時間は15~90分の範囲で変化させ,維持終了後に速やかに試料を取り出し,水中急冷した。回収した試料について,まず形状を記載し,その後に切断・研磨して薄片試料を作製し,偏光顕微鏡で観察・記載した。また, 1160℃と1150℃でそれぞれ45分間加熱した実験試料の電子顕微鏡写真を撮影・観察した。更に,透過スキャナですべての試料薄片の写真を撮影し,これと1160℃と1150℃の45分間加熱したものの電子顕微鏡写真について画像解析を行い,斑晶と石基の結晶量を定量した。
すべての試料において加熱後は表面がガラス質になっていることが確認されたが、1150℃では90分加熱しても試料の流動変形は認められなかった。しかし、1160℃以上では45分以内に流動変形がおこり、流動の開始に要する時間は高温ほど短かった。また、1160℃以上で見られた流動開始時間のおける温度依存性は,溶岩の石基鉱物が溶融するのにかかる時間が昇温とともに短くなるためであり、加熱時間の長い天然の溶岩流では無視することになる。このことから、1155±5℃の狭い温度範囲で,溶岩が固体から液体へと劇的に変化することがわかった。そこで,維持時間45分の実験試料について顕微鏡写真をGIMP(version2.10.24)とImageJ(version 1.53c)を用いて斑晶量を定量した。温度の上昇に伴い発砲度が大きくなったが、これは温度が高くなるとマグマの粘性率が低くなり気泡が膨張することができたためだと考えられる。斑晶量の値は約37.5vol%で温度によらず変化しなかった。一方で顕微鏡観察の結果,石基鉱物の量が温度上昇とともに減少し、メルトが急冷凍結されたガラスの量が増加する傾向がみられた。そこで、電子顕微鏡写真の画像解析によって石基の結晶量を定量した。その際、大きい結晶は斑晶として除くため、長端が100umを超えているものは除外して計算したところ、1150℃で9.6vol%1160℃で2.5vol%まで7.1%ほど結晶量が減少した。それを踏まえてMaderの計算式を使い結晶量から溶岩の粘性率を見積もったところ,石基のみまたは斑晶のみの場合でも溶岩は粘性率が103.5Pasと低く液体としてふるまう。しかし、石基と斑晶の両方の結晶量を合わせたもので見ると1160℃と1150℃の間で106Pasから104Pasまで急激に変化していることが分かった。この変化が溶岩の粘性率に大きくかかわっていると考えられる。以上より,溶岩中の総結晶量が40-47vol%をこえるか否かが,溶岩のふるまいが液体的か固体的になるかを決めると考えられる。それを踏まえて熱力学相平衡計算プログラムMELTSによる石基結晶作用シミュレーションの結果と比較すると,石基のみで1150℃では結晶量は21%ほどだが1160℃では10%ほどまで減っているのが分かった。これをもとに考えると、無斑晶の場合なら45℃ほどの温度の低下が必要となるが、斑晶を37%ほど含むものだと5℃の冷却で流動を停止する可能性があることが分かった。このことから,斑晶量が噴火後の溶岩流の挙動に強い影響を及ぼしていると考えられる。
実験の始発物質は,富士川河口の露頭で採取した富士山の溶岩(水神溶岩)を1辺2cmの立方体状に切断したものである。これを底面の頂点4点のみでアルミナ製るつぼに接するように配置し,あらかじめ目的温度まで熱した電気炉中で一定時間維持した。実験温度は1150~1180℃,維持時間は15~90分の範囲で変化させ,維持終了後に速やかに試料を取り出し,水中急冷した。回収した試料について,まず形状を記載し,その後に切断・研磨して薄片試料を作製し,偏光顕微鏡で観察・記載した。また, 1160℃と1150℃でそれぞれ45分間加熱した実験試料の電子顕微鏡写真を撮影・観察した。更に,透過スキャナですべての試料薄片の写真を撮影し,これと1160℃と1150℃の45分間加熱したものの電子顕微鏡写真について画像解析を行い,斑晶と石基の結晶量を定量した。
すべての試料において加熱後は表面がガラス質になっていることが確認されたが、1150℃では90分加熱しても試料の流動変形は認められなかった。しかし、1160℃以上では45分以内に流動変形がおこり、流動の開始に要する時間は高温ほど短かった。また、1160℃以上で見られた流動開始時間のおける温度依存性は,溶岩の石基鉱物が溶融するのにかかる時間が昇温とともに短くなるためであり、加熱時間の長い天然の溶岩流では無視することになる。このことから、1155±5℃の狭い温度範囲で,溶岩が固体から液体へと劇的に変化することがわかった。そこで,維持時間45分の実験試料について顕微鏡写真をGIMP(version2.10.24)とImageJ(version 1.53c)を用いて斑晶量を定量した。温度の上昇に伴い発砲度が大きくなったが、これは温度が高くなるとマグマの粘性率が低くなり気泡が膨張することができたためだと考えられる。斑晶量の値は約37.5vol%で温度によらず変化しなかった。一方で顕微鏡観察の結果,石基鉱物の量が温度上昇とともに減少し、メルトが急冷凍結されたガラスの量が増加する傾向がみられた。そこで、電子顕微鏡写真の画像解析によって石基の結晶量を定量した。その際、大きい結晶は斑晶として除くため、長端が100umを超えているものは除外して計算したところ、1150℃で9.6vol%1160℃で2.5vol%まで7.1%ほど結晶量が減少した。それを踏まえてMaderの計算式を使い結晶量から溶岩の粘性率を見積もったところ,石基のみまたは斑晶のみの場合でも溶岩は粘性率が103.5Pasと低く液体としてふるまう。しかし、石基と斑晶の両方の結晶量を合わせたもので見ると1160℃と1150℃の間で106Pasから104Pasまで急激に変化していることが分かった。この変化が溶岩の粘性率に大きくかかわっていると考えられる。以上より,溶岩中の総結晶量が40-47vol%をこえるか否かが,溶岩のふるまいが液体的か固体的になるかを決めると考えられる。それを踏まえて熱力学相平衡計算プログラムMELTSによる石基結晶作用シミュレーションの結果と比較すると,石基のみで1150℃では結晶量は21%ほどだが1160℃では10%ほどまで減っているのが分かった。これをもとに考えると、無斑晶の場合なら45℃ほどの温度の低下が必要となるが、斑晶を37%ほど含むものだと5℃の冷却で流動を停止する可能性があることが分かった。このことから,斑晶量が噴火後の溶岩流の挙動に強い影響を及ぼしていると考えられる。