13:45 〜 15:15
[O08-P37] 鳥取砂丘と地下水が生んだ奇跡!? ~えっ!?砂丘でわさび?~
キーワード:水文学、地学、地理学
【要旨】
鳥取砂丘には,驚くべきことに水が湧いている。この湧水は,標高等を考慮すると海水でないことは明らかである。また,鳥取大学乾燥地研究センターには砂丘周辺で最大の湧水地がある。この湧水地にはわさびが自生しており,ここ以外に海岸砂丘では生育の前例がない。そのため,湧水の成分に生育要因が関係あると考え,研究を行った。
この湧水地の多くの湧き出し口の中から26箇所を選択し,それぞれの湧水の成分測定(気温,水温,pH,EC,Na+,Ca2+,NO3-)を毎週実施するとともに,毎月採水した湧水と降水の安定同位体分析を行った。これらの結果と地形的な考察から,この湧水には降雨が強く影響していると考察され,さらには乾地研内の湧水地は場所によって降水の湧出経路が違うと考察できた。また,湧水の成分の違いにより,この湧水地がわさびの成長に適した場所であるとも明らかになった。
今後は,湧水地周辺の地下構造を調べ,それぞれの地下水流路について調べていきたい。
【目的】
景勝地として有名な鳥取砂丘には観光中心ポイントに湧水地が存在しており,ジオパーク景観の重要な一部となっている。このような湧水は砂丘周辺に複数あるが,最大のものは鳥取大学乾燥地研究センター内に存在する。また,この湧水地のみの特徴として,ワサビの自生が挙げられる。一般的にワサビは山地渓流に生育する植物で,当地以外での海岸砂丘における生育例はない。そこで本研究では,この湧水地でワサビが生育可能である要因を,地学的視点から明らかにすることを目的とした。
【実験方法】
湧水地内の主な湧出地点である26箇所において,地下水成分の現地観測を毎週実施した。測定項目は水温,pH,EC,Na+,Ca2+,NO3-である。湧水と降水は月ごとに採水し,安定同位体分析を行った。
また,上記の26箇所から特徴的な9地点を選び,ワサビの生育試験を実施し地下水成分との比較を行った。
【結果と考察】
地下水の成分測定の結果,地点ごとに異なる特徴が得られた。特に水温,pH,ECでは地点ごとの差が顕著であった。図1に示す水温の経時変化から,典型的な地下水と異なり季節変化の大きい地点が存在することが分かる。そこで,各地点の平均水温と標準偏差を用いてグループ分けを行ったところ,5種に分類された。さらに,水温,pH,ECから総合的に求めたところ,図2に示す4種に分類され,特性の異なる地下水が湧いていることが明らかになった。
次に,湧水と降水の安定同位体分析の結果を図3に示す。一般的に湧水は,降水が地中で平均化され湧出する。図3の結果からも,多くの湧水は降水の平均値に近いことが分かる。一方で,一部の湧水は,季節的に特異な値を示す降水の影響を強く受けている。
以上の結果から,当湧水地では降水が地中で均一化された地下水を基本として,直近の降水の影響を強く受けた地下水など,複数の地下水流出経路があることが明らかになった。既存の文献結果と併せたところ,この複数の地下水流出経路は,砂丘地下に堆積する火山灰層の分布によるものであると判明した。
ワサビの生育試験結果は地下水流出経路の分布と良く合致し,水温・水質変化が少ない地点では成長が良く,降雨の影響で変化が大きい地点では成長が悪かった。
両者の平均葉面積の差は2.14倍と顕著であった。
【まとめと今後の課題】
一般的に小規模な湧水地内では,湧き出る地下水の成分は湧出点が異なっても同一である。しかし,今回の結果から,本研究地の湧水では砂丘の地質構造に起因して,地下水の流出経路が複数あることが明らかになった,これは全国的に見ても珍しい地学現象である。
また,湧水成分の複雑性によりワサビの自生がコントロールされ,当地のワサビ生育の自然条件が奇跡的なバランスの上に成り立っていることも明らかになった。
今後は,湧水周辺の地下構造を調査し,それぞれの地下水流出経路について明らかにしていきたい。
鳥取砂丘には,驚くべきことに水が湧いている。この湧水は,標高等を考慮すると海水でないことは明らかである。また,鳥取大学乾燥地研究センターには砂丘周辺で最大の湧水地がある。この湧水地にはわさびが自生しており,ここ以外に海岸砂丘では生育の前例がない。そのため,湧水の成分に生育要因が関係あると考え,研究を行った。
この湧水地の多くの湧き出し口の中から26箇所を選択し,それぞれの湧水の成分測定(気温,水温,pH,EC,Na+,Ca2+,NO3-)を毎週実施するとともに,毎月採水した湧水と降水の安定同位体分析を行った。これらの結果と地形的な考察から,この湧水には降雨が強く影響していると考察され,さらには乾地研内の湧水地は場所によって降水の湧出経路が違うと考察できた。また,湧水の成分の違いにより,この湧水地がわさびの成長に適した場所であるとも明らかになった。
今後は,湧水地周辺の地下構造を調べ,それぞれの地下水流路について調べていきたい。
【目的】
景勝地として有名な鳥取砂丘には観光中心ポイントに湧水地が存在しており,ジオパーク景観の重要な一部となっている。このような湧水は砂丘周辺に複数あるが,最大のものは鳥取大学乾燥地研究センター内に存在する。また,この湧水地のみの特徴として,ワサビの自生が挙げられる。一般的にワサビは山地渓流に生育する植物で,当地以外での海岸砂丘における生育例はない。そこで本研究では,この湧水地でワサビが生育可能である要因を,地学的視点から明らかにすることを目的とした。
【実験方法】
湧水地内の主な湧出地点である26箇所において,地下水成分の現地観測を毎週実施した。測定項目は水温,pH,EC,Na+,Ca2+,NO3-である。湧水と降水は月ごとに採水し,安定同位体分析を行った。
また,上記の26箇所から特徴的な9地点を選び,ワサビの生育試験を実施し地下水成分との比較を行った。
【結果と考察】
地下水の成分測定の結果,地点ごとに異なる特徴が得られた。特に水温,pH,ECでは地点ごとの差が顕著であった。図1に示す水温の経時変化から,典型的な地下水と異なり季節変化の大きい地点が存在することが分かる。そこで,各地点の平均水温と標準偏差を用いてグループ分けを行ったところ,5種に分類された。さらに,水温,pH,ECから総合的に求めたところ,図2に示す4種に分類され,特性の異なる地下水が湧いていることが明らかになった。
次に,湧水と降水の安定同位体分析の結果を図3に示す。一般的に湧水は,降水が地中で平均化され湧出する。図3の結果からも,多くの湧水は降水の平均値に近いことが分かる。一方で,一部の湧水は,季節的に特異な値を示す降水の影響を強く受けている。
以上の結果から,当湧水地では降水が地中で均一化された地下水を基本として,直近の降水の影響を強く受けた地下水など,複数の地下水流出経路があることが明らかになった。既存の文献結果と併せたところ,この複数の地下水流出経路は,砂丘地下に堆積する火山灰層の分布によるものであると判明した。
ワサビの生育試験結果は地下水流出経路の分布と良く合致し,水温・水質変化が少ない地点では成長が良く,降雨の影響で変化が大きい地点では成長が悪かった。
両者の平均葉面積の差は2.14倍と顕著であった。
【まとめと今後の課題】
一般的に小規模な湧水地内では,湧き出る地下水の成分は湧出点が異なっても同一である。しかし,今回の結果から,本研究地の湧水では砂丘の地質構造に起因して,地下水の流出経路が複数あることが明らかになった,これは全国的に見ても珍しい地学現象である。
また,湧水成分の複雑性によりワサビの自生がコントロールされ,当地のワサビ生育の自然条件が奇跡的なバランスの上に成り立っていることも明らかになった。
今後は,湧水周辺の地下構造を調査し,それぞれの地下水流出経路について明らかにしていきたい。