日本地球惑星科学連合2022年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表O08-P41~P60

2022年5月29日(日) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (1) (Ch.01)

15:30 〜 17:00

[O08-P50] 田んぼの稲はなぜ波打つのか ~自作風向風速計を用いた「穂波」現象の解明~

*増永 由佑1、*三ツ橋 慧1 (1.獨協埼玉中学高等学校)


キーワード:穂波、稲の波打ち、風、自作風向風速計

1研究の背景と目的

獨協埼玉中高は水田に囲まれ、風が吹いた際に稲が大きく波打つ様子が見える。その現象が「穂波」と呼ばれることを知り、調べることにした。本研究では、「穂波」の発生や波の伝播の特徴について調べ、穂波の発生メカニズム全般を明らかにする。

2方法

2-1穂波の現地測量

2020年9月3日越谷市では雨・風が強まり、午後になり学校脇の水田の稲が倒伏した。穂波形状が確認されたため、9月7日に水田外より写真測量を行った。約30m×50mの水田の畔に等間隔にスケールを設置した。脚立上から撮影を行い画像を基に穂波の形状を計測した。

2-2-1撮影・解析方法

2021年7月24日の15時から5分間、穂波の動画撮影を行った。校舎屋上にカメラを設置し、畦上と水田内に1mおきに目印を置いた。屋上からの映像を用いて、穂波の波長・谷長軸の長さ・穂波単体の移動速度・穂波群(後述)の移動速度を測定し、自作風向風速計により1秒間隔で風向風速を計測した。なお10秒程度の周期で風速変動がみられたので、10秒移動平均で風速を平滑化した。(以下風速とは移動平均風速を指す)

2-2-2風向風速計の制作

私達は独自に風向風速計を作成した。この装置は構造が単純で、狭い畔に設置可能であり、非常に安価である。上部のプラ板の中心からスチロール球を吊るし、球の変位量と変位方向から風速と風向がそれぞれ求められる。球を用いることで風を受ける投影面積は一定になる。

3結果

3−1現地測量結果

測量の結果を図1に示す。穂波谷部(図中着色部)は、列をなし、パッチ状に分布する。穂波波長平均は約2mである。穂波の谷長軸方位は図2の通り、西北西-東南東に集中する。穂波形成当日(2020年9月3日午後)のアメダスデータより、越谷では南南西平均風速4.2m/sの風が観測され、風向(図中矢印)と谷長軸方位は直交する。一方、稲束は北西〜北北西に倒れ、風向と穂波長軸方位に斜交する。

3−2動画解析結果

3-2-1目視観察結果

穂波移動方向は風向と一致し、稲束振動方向と穂波移動方向は一致する。穂波の発生部に注目すると、単独で発生・移動する場合があるが、最前部の穂波の前に新たな穂波を形成しつつ全体が移動することも多い。この場合の穂波全体を「穂波群」とする。(図3)

3-2-2動画・風速解析結果

図4の風速と波長の関係(▲プロット)より、風速2m/s以上で穂波発生頻度が上がり風速と正の相関が認められる。図4の●プロットは風速と穂波移動速度の関係を示す。なお「穂波群速度」とは、最前部の穂波に注目しその移動距離で算出した速度である。結果、風速と正の相関が認められた。単体速度は風速によらず平均1.25m/sと一定速度である。図5は穂波長軸の長さと風速の関係を示す。各風速での最小値に注目すると下に凸の放物線となる。

4考察

風速と穂波群速度には正の相関があり、風速の0.6倍程度の速さで新たな波を作りつつ全体が移動する。ただし、風速3m/s以下の条件では群移動速度が風速よりも速くなり、考えにくい。低風速域で移動速度を計測したデータは、水田上の風速が平均風速と異なると思われる。穂波群の移動距離の変化は単体移動速度が一定であることから、最前部の穂波波長の伸長が要因となる。しかし図4では、波長の傾きより穂波群速度の傾きが上回る。観測された風速が穂波上の風速と異なる可能性も考えられる。これらは今後、穂波の発生地点(水田内)で風速を測れれば検証できるはずである。

穂波長軸の長さについて、水田上を通過する風が小規模な空気塊から成り、空気塊ごとに穂波を形成すると仮定する。低風速帯では風速が遅いほど長軸が長くなるので、左右の空気塊が揃ったときに穂波が発生すると考えられる。一方、風速2〜3m/s以降では風速が速いほど長軸が長くなる。これは空気塊自体が大きくなるからであると考えられる。

穂波の形状・稲の倒伏と風の関係について、谷を形成する稲束の倒伏方向は図2の通り、風向とも穂波の長軸方向とも一致しない。穂波の形成と倒伏が同時に起こったと仮定すると、異なる方向に風の力が同時に加わる。穂波上の気流が複雑化し複数の方向に力が働いた可能性がある。一方、風の力が一方向のみ作用すると考えると、穂波形成と稲束の倒伏が別の風により起こる。いずれも水田上の風が均一で無いことを示す。

5.結果

穂波には単独形成・移動するものと穂波群を作るものがある。穂波は風向と直交方向に谷を形成し谷の長軸長さと穂波波長は風速により変化する。穂波の移動速度は単体では風速によらずほぼ一定で、新たな波が前面に形成される。穂波群は風速の6割程度の速度で移動拡散する。今後の課題として、稲束の倒伏と穂波形成の関係を検証するために風洞実験を行う。また水田上の風速分布を計測する手法を検討し、より正確な風の可視化を目指す。