日本地球惑星科学連合2022年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表O08-P41~P60

2022年5月29日(日) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (1) (Ch.01)

15:30 〜 17:00

[O08-P56] 深層学習を用いた流星出現シグナルの解析・検出システムの開発

*佐藤 弘一1、*李 弘思1、*安藤 美月1、*磯田 隼佑1、*戸田 敬仁1、*小田 美桜1、*安江 華1 (1.中央大学附属中学校・高等学校)


キーワード:流星電波観測、Python、深層学習、Arduino

<はじめに>
 流星電波観測は、特定の周波数の電波を受信できる受信機とアンテナを用いた流星観測手法であり、現在世界中で取り組まれている。これは、流星が大気圏を通過する際に地上からの電波の一部が反射されるという性質を利用している。この従来の観測手法は、受信機をはじめとする高価な機材の用意やシステム構築の必要がありコストがかかる。そこで私たちは、誰でも容易に流星群を観測できるようにすることを目的とし、自動で流星を観測して流星出現情報を速やかに通知する「流星出現通知システム」の開発に取り組んできた。これまでの研究開発では、流星出現シグナルの検出から流星出現情報の配信までのプロセスを完全に自動化し、さらに定量的かつ安定したデータ収集が実現した。しかし、従来の流星出現シグナルの検出基準では、微弱な流星を検出できないことやノイズを流星として誤検出するという課題が残された。そこで本研究では、流星電波観測で得られた音声データを深層学習によって解析することで、流星出現シグナルをより高精度に検出することを目指した。

<手法>
 これまでに私たちが開発してきた流星電波観測システムは、主に3つのセクション:1)流星電波観測セクション(2素子アンテナと受信機により流星電波を観測する)、2)解析セクション(収集した音声データをArduinoおよびPythonによって解析する)、3)送信セクション(BOTを用いて流星出現情報を配信する)で構成される。本研究では、新たに、解析セクションに深層学習モデルを導入した。なお、実験には深層学習ライブラリPyTorchを用いた。

 散在流星を対象に観測して得られた音声データの深層学習は次の手順で行った;
1)Pythonを用いて、連続する音声データを1秒ごとに区切った。
2)処理数削減のために音声データの一部を抽出した。抽出基準は音量­−30.29 dB(コンピュータで扱える最大音量を0とする)以上かつ周波数495 Hzとした。これらの基準値は、私たちの先行研究で特定した周波数と、その周波数における音量を出力するプログラムを通して流星出現シグナルおよびノイズを多量に含むように決定した。
3)抽出した音声データについてスペクトログラムを作成し、画像ファイルとして出力した(n > 300)。
4)それぞれの画像について、流星出現シグナルとノイズを手動で判別したデータラベルを設定した。これを深層学習用のデータとした。
5)手順4で作成した画像とラベルのうち、正答判定に用いるため一部を無作為に選択し、深層学習用のデータから除外した。正答判定では、判定システムにデータを入力してデータラベルと比較した。その結果が同一である場合は「正」、そうでない場合は「誤」とした。
6)深層学習用のデータとして残った画像とラベルを用いて、画像認識についての情報を深層学習モデルに学習させた。

上記の手法で開発した深層学習モデルを用いて、本研究では次の3つの実験を行った;
実験I)散在流星を電波観測した際に得られた録音音声データを、深層学習モデルを用いて流星出現シグナルかノイズかを判定した。その後、予め設定したラベルと比較して正答率を算出した。
実験II)微弱な流星出現シグナルの検出を目指し、上記の手順2(音声データの一部抽出)を実施せずに全ての音声データについて判定を行い、正答率を算出した。
実験III)実験IおよびIIで取得した音声データとは異なる時期に散在流星を観測し、取得した音声データを用いて正答率を算出した。

<結果と考察>
 実験Iでは、新たな流星出現シグナルの検出方法として深層学習を導入した。流星出現シグナルとノイズをより高精度に判別できるようになり、95.57%の正答率が得られた。実験IIでは、秒単位の音声データ全てを解析対象として流星出現シグナルを判定できるシステムを開発し、実験 I と同様に 95.57%の正答率を得た。これにより、本システムで微弱な流星も検出できることが確認された。実験IIIでは、深層学習のプログラムを構築したタイミングとは異なる時期に行った流星電波観測のデータを用いた。その結果94.97%の正答率を得た。よって、本システムは実用性があり、様々な流星出現シグナルやノイズパターンに十分に対応できる精度を有しているといえる。

<結論と今後の展望>
 私たちは流星電波観測に深層学習モデルを導入することに成功した。本研究で開発した深層学習モデルによる流星出現シグナルの解析・検出システムでは、従来の基準では難しかった微弱な流星出現シグナルの検出も可能となった。また、誤検出の要因となるノイズを含む音声データをより正確に処理することができた。今後は、本システムによって取得した流星出現情報を活用して、流星群の発生ピークを予測・配信するシステムの開発を目指す。