16:45 〜 17:00
[PCG18-18] レーザ―局所分析法による火星隕石のK-Ar年代測定
キーワード:K-Ar、LIBS、火星
火星で探査機が複数の地質ユニットの放射年代測定を行うことは、火星の層序年代に絶対年代のスケールを付与することができるため、非常に重要である。また、将来の帰還試料選定においても有用であると期待できる。
実際に、火星探査機キュリオシティによって Alpha Particle X-Ray Spectrometerと四重極質量分析計(QMS)を併用したカリウム・アルゴン(K-Ar)法を利用した年代測定が行われている1,2,3。しかしこの手法は、Arの抽出に高温のオーブンが必要で電力消費が大きく、昇温可能温度や継続時間の制約から、結晶格子内部のArを十分に抽出できない可能性が指摘されている2。また、サンプルの運搬中に鉱物が分別され得ること、KとArが別の分注で測定されるため厳密に同じサンプルで測定できないなどの測定法上の問題により、年代値が正しく求まらなかったことも報告されている2。
このような問題を解決するための新しい年代測定装置の開発が進んでいる(例えば[4–6])。K-Arレーザ―実験装置は、Laser-Induced Breakdown Spectroscopy (LIBS)と質量分析計を組み合わせた方法で、試料を粉末にする必要がなく試料に数百μmのスポット径のパルスレーザーを当てることにより岩石の局所分析を行い、アイソクロンを得ることができる特長を持つ。この測定方法を用いてKに富む地球の岩石や玄武岩などの分析結果が報告されている5,7。しかしカリウム濃度が低い火星のサンプルについての分析はできていなかった。そこで本研究では、光学系の改良を行った上で火星隕石の局所分析を行って、K-Arアイソクロン年代計測の成立性を調査した。
本研究では、シャーゴッタイトに分類される火星隕石NWA1068を真空容器に入れて10-6 Paのオーダーまで真空引きした。次に1箇所あたり1000回のレーザーパルス(波長266 nm、エネルギー25 mJ)を照射した。レーザー照射時に生じるプラズマの発光から、酸素輝線強度を用いた内標準検量線によってKの濃度を測定した。レーザー照射によって抽出されたガスをQMSで測定することでArを定量した。また、レーザー痕を顕微鏡で観察することで掘削体積を測定し、密度の推定値 2.7 g/cm3から、測定部位の質量を推定した。レーザー照射点をXYステージで動かしながら、同じ隕石の4箇所で測定を繰り返した。
予備的な結果によると、4点のK2O濃度は0.23–0.43 wt.%、40Ar量は1.6–2.4 ×10-14 molとそれぞれ計測された。シャーゴッタイトのバルクK濃度と比較してやや高い値(0.16 wt.% [8])が得られたことについては、K検量モデルの精密化を行って今後精査する。また、レーザー痕の体積から求まる測定重量は48–63 μgであった。4スポットのデータから作成した内部アイソクロン年代は726±132 Maと計算された。これは、すでに報告されているNWA1068のK-Ar年代(610 Ma [9])と誤差の範囲で一致しており、本手法によるアイソクロン年代計測の成立性を強く示唆する。また、アイソクロンの切片として得られた40Ar量の値は<1.8×10-6 cm3STP/gであり, 先行研究において報告されている過剰40Ar(1.32×10-6 cm3STP/g [10])と誤差の範囲で一致する。今までの測定方法では放射崩壊由来の40Ar とトラップされた40Ar の区別することが不可能であったが、今回の測定ではトラップされた40Ar を検出できた可能性がある。このことは測定された年代の精度向上に寄与する。以上のことから、本研究で開発するレーザーアイソクロン法が火星の岩石についても適用できることを強く示唆する結果が得られた。
引用文献: [1] Farley+. 2014 Science 343:1247166, [2] Vasconcelos+ 2016 JGR, 121:2176, [3] Martin+ 2017 JGR, 122:2803, [4] Cohen+ 2014 Geostand Geoanal Res, 38:421, [5] Cho+ 2016 PSS, 128:14, [6] Devismes+ 2016 Geostand Geoanal Res, 40:517, [7] Cho & Cohen 2018 RCMS, 32:1755, [8] Barrat+ 2002 Geochimica et Cosmochimica Acta, 66(19):3505, [9] Mathew+ 2003 EPSL, 214:27, [10] Bogard+ 2009 MaPS, 44(6):905
実際に、火星探査機キュリオシティによって Alpha Particle X-Ray Spectrometerと四重極質量分析計(QMS)を併用したカリウム・アルゴン(K-Ar)法を利用した年代測定が行われている1,2,3。しかしこの手法は、Arの抽出に高温のオーブンが必要で電力消費が大きく、昇温可能温度や継続時間の制約から、結晶格子内部のArを十分に抽出できない可能性が指摘されている2。また、サンプルの運搬中に鉱物が分別され得ること、KとArが別の分注で測定されるため厳密に同じサンプルで測定できないなどの測定法上の問題により、年代値が正しく求まらなかったことも報告されている2。
このような問題を解決するための新しい年代測定装置の開発が進んでいる(例えば[4–6])。K-Arレーザ―実験装置は、Laser-Induced Breakdown Spectroscopy (LIBS)と質量分析計を組み合わせた方法で、試料を粉末にする必要がなく試料に数百μmのスポット径のパルスレーザーを当てることにより岩石の局所分析を行い、アイソクロンを得ることができる特長を持つ。この測定方法を用いてKに富む地球の岩石や玄武岩などの分析結果が報告されている5,7。しかしカリウム濃度が低い火星のサンプルについての分析はできていなかった。そこで本研究では、光学系の改良を行った上で火星隕石の局所分析を行って、K-Arアイソクロン年代計測の成立性を調査した。
本研究では、シャーゴッタイトに分類される火星隕石NWA1068を真空容器に入れて10-6 Paのオーダーまで真空引きした。次に1箇所あたり1000回のレーザーパルス(波長266 nm、エネルギー25 mJ)を照射した。レーザー照射時に生じるプラズマの発光から、酸素輝線強度を用いた内標準検量線によってKの濃度を測定した。レーザー照射によって抽出されたガスをQMSで測定することでArを定量した。また、レーザー痕を顕微鏡で観察することで掘削体積を測定し、密度の推定値 2.7 g/cm3から、測定部位の質量を推定した。レーザー照射点をXYステージで動かしながら、同じ隕石の4箇所で測定を繰り返した。
予備的な結果によると、4点のK2O濃度は0.23–0.43 wt.%、40Ar量は1.6–2.4 ×10-14 molとそれぞれ計測された。シャーゴッタイトのバルクK濃度と比較してやや高い値(0.16 wt.% [8])が得られたことについては、K検量モデルの精密化を行って今後精査する。また、レーザー痕の体積から求まる測定重量は48–63 μgであった。4スポットのデータから作成した内部アイソクロン年代は726±132 Maと計算された。これは、すでに報告されているNWA1068のK-Ar年代(610 Ma [9])と誤差の範囲で一致しており、本手法によるアイソクロン年代計測の成立性を強く示唆する。また、アイソクロンの切片として得られた40Ar量の値は<1.8×10-6 cm3STP/gであり, 先行研究において報告されている過剰40Ar(1.32×10-6 cm3STP/g [10])と誤差の範囲で一致する。今までの測定方法では放射崩壊由来の40Ar とトラップされた40Ar の区別することが不可能であったが、今回の測定ではトラップされた40Ar を検出できた可能性がある。このことは測定された年代の精度向上に寄与する。以上のことから、本研究で開発するレーザーアイソクロン法が火星の岩石についても適用できることを強く示唆する結果が得られた。
引用文献: [1] Farley+. 2014 Science 343:1247166, [2] Vasconcelos+ 2016 JGR, 121:2176, [3] Martin+ 2017 JGR, 122:2803, [4] Cohen+ 2014 Geostand Geoanal Res, 38:421, [5] Cho+ 2016 PSS, 128:14, [6] Devismes+ 2016 Geostand Geoanal Res, 40:517, [7] Cho & Cohen 2018 RCMS, 32:1755, [8] Barrat+ 2002 Geochimica et Cosmochimica Acta, 66(19):3505, [9] Mathew+ 2003 EPSL, 214:27, [10] Bogard+ 2009 MaPS, 44(6):905